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An another tale of Z ATZ資料集(14)




6.ジオン陸軍成立の事情

 本作独自のジオン公国の軍隊「ジオン陸軍(ラントヴェーア)」、その成立経緯についてのお話です。




〇〇五九年六月 サイド3 ジオン共和国

 その巡視船の人物は船上から流星群の通過で穴だらけになったコロニーの壁面を見た。一昨年にムンゾ自治共和国から改名した新共和国の首相に就任したこの人物に対しては、宗主国である地球連邦政府の態度は最初から冷たかった。スペースコロニーは大規模な太陽爆発による宇宙線や飛来する小石大の流星に対しては十分頑丈に作られているが、先月の流星雨の飛来は宇宙世紀始まって以来最大のものであった。官邸では建設大臣のデギン・ザビが業界を叱咤して損傷したコロニーの修繕作業の指揮に当たっている。
「修繕に何年、いくら掛かるのか検討もつかぬ。」
 ジオンは一緒に乗船しているラル家の当主ジンバ・ラルに声を掛けた。ジンバはジオンの熱烈な後援者で、彼の娘アストライアはジオンの細君でもある。
「おのれ連邦め、ソーラ・バーンをさえ用いておれば、こんな流星雨、サイド3に到達する前に焼き尽くしていたものを。」
 ジンバの言うソーラ・バーンとは、連邦艦隊が装備している対流星雨用の太陽兵器で、巨大な鏡と対物レンズから成る。大部分が氷の塊である流星ならば、この兵器でかなりの数を蒸散させることが考えられた。しかし、飛来した流星の数は推定一千万個、連邦艦隊が装備している「バーン」システムは百基しかなく、おそらくはこの兵器を持ってしても被害は避けられなかったものに見えた。いずれにせよ、連邦政府は事情を知りつつもジオンへの装備の貸出は拒否していた。
 もっとも、異常事態の発生に、高い宇宙技術を持つジオンの技術者も挙手傍観していたわけではなかった。流星雨の接近を知り、彼らが死に物狂いで開発した光線銃ゲルドルバはやはり同じ巨大な凹面鏡と人工太陽によるレーザー発振器を組み合わせた光線兵器で、ジオンには数多い小型コロニーを改造して五〇基が建造され、外惑星空間での流星雨の迎撃に活躍した。
 彼らが光線兵器を必要とした理由は、当時はメガ粒子砲が開発されていなかったため、本土から遠く離れた宇宙空間で弾薬や推進剤切れの心配なく流星迎撃に使える兵器が他になかったことがある。極めて高速、第二から第三宇宙速度で飛来する流星には実弾兵器やネットはほとんど役に立たない。核兵器の使用も検討されたが、大気のない宇宙空間での核の使用はエネルギーを発散するだけで直撃以外はほとんど効果がないことが判明して取り止められた。また、直撃したとしても打ち砕かれた流星の破片は元の軌道のまま直進するので、却って処理が困難になることが考えられた。
 迎撃には友邦ガイアの戦艦も出撃し、巡視船に乗るジオンの近くでは迎撃に参加したガイア自治共和国の戦艦「ザカライアス」の姿もある。ジオンは帰投するガイアの戦艦に手を振って感謝の意を示した。なお、この迎撃作戦には少数ながらムーア、ルウムの艦艇も参加している。
「このようなことが起き得るとなると、今後は流星迎撃専門の部隊を編成した方が良いかもしれん。連邦はもう、当てにはならん。」
 政治的イデオロギーの相違が理由で人類共通の危機さえジオン失脚に利用するとは、分厚い大気圏に守られている彼らには宇宙の民のことなど眼中にない。乗船していたベルテン社のジュグノーが吐き捨てるように言った。
「もう何年もの間、我が国を独立させるため、連邦議会の議員にいくら貢いできたか、にも関わらず、これだ。」
 ジュグノーに言わせれば、国力で大幅に劣るジオンさえ、光線兵器ゲルドルバを短期間に五〇基も作り得た。国力でジオンに二〇倍する連邦なら一千基は作れたはずだ。一千基のゲルドルバがあれば、それでも全部の撃墜は不可能なものの、コロニーに損害を与えうる大型の流星については全部を撃墜したに違いない。そう言い、悔しがるジュグノーにジ


オンが声を掛ける。
「迎撃専門の部隊と言ったな、ハンス、だが、大宇宙の力の前には、我々はあまりにも無力だ。」
 そもそもこの流星帯の接近は、実は彼らの責任ですらなかった。それは何百万年も前にすでに決まっていたことだった。遠い遠い昔、まだ人類の祖先がアフリカの樹上で暮らし、ようやく二足歩行を始めた頃、太陽系の近くで超新星爆発が起こった。その時に生じた爆風で太陽系外縁のいくつかの天体が衝突して飛散し、破片が地球に向かった。木星航路の貨物船がサイド3に向かう大規模な流星帯を発見したのは、これら星屑による数百万年の旅路のまさに終わりの頃の話だった。
 それに大自然以外にも問題がある。連邦との条約で、共和国は艦艇の保有を制限されていた。ジオンは連邦の目が厳しい宇宙艦隊とは別に、平時はコロニー内の保守や遊星迎撃に当たり、有事には地上戦力となる部隊の創設を彼らに提案した。
「新しい部隊には、ジオン陸軍(ジオン・ラントヴェーア)と名付けよう。」
 ジオン国土防衛隊、ジオン陸軍のこれが始まりである。




ソーラ・バーン 本作におけるいわゆるソーラ・システムの原型。複数の鏡面パネルを操作して太陽光を対象物に集中させて溶解させる兵器。本作でも第四部で用いられた。



ゲルドルバ 密閉型のコロニーを持つジオンで開発されたソーラ・レイの原型、この時代のシステムの大きさは不明だが、それでも直径一キロ近くの巨大ビーム砲であることは間違いない。ジオンのあるサイド3は他のサイドと開発経緯を異にするため、小型のコロニーが多いことについては第二十二話。



 第一部では政治権力を失い、同盟公使となっているジュグノーだが、元々ジオンのスポンサーの一人で、この時代はデギン、ジンバらと共にジオンの側近で、ジオン最大の企業ベルテン社の総帥を務めている。



 戦艦ザカライアスは後にオーブルの戦艦として登場するが、この艦は元はパシフィック共和国のザケネー級戦艦(アエイネスと思われる)で0080年代の艦のため、この話に登場しているのは初代ザカライアス。

(おわり)




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