Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ説話集(134)




37.この不確かな世界


 第三部では混迷続くサイド2の戦乱と疲弊したジオンの状況が描かれますが、話の進行で問題は一つ一つ解決されていくとはいえ、残っている問題もあります。






〇〇九八年八月
ズム・シチ市 アルティシア新聞社


イラ・マスは夕方の編集者たちとの打ち合わせを済ませると社主室に戻り、古風な卓上ワープロのスイッチを入れた。ZECのジオニック101は今となっては古い機種だが、帰国して記者見習いを始めた際に最初に購入した機種を彼女はいまだに使い続けている。彼女はワープロの画面を呼び出し、「時事独言」のタイトルを打ち込んだ。なお、ZECはジオンの家電企業でジオニック社とは資本上の繋がりはない。
 サイド2では反攻に転じたオーブルがアルカスルから出撃して正統政府を追い詰めている。彼女の認識では元々のパシフィックの政府が正統政府でオーブル軍はバートン共産党なのだが、選挙の時に不正をしたために正統性はどっちもどっちという感じになっている。オーブルが勝てばサイド2の四五%が共産化し、地域に影響を及ぼすだろう。
 ソロモンのリーデルが提唱している地域経済圏も大きなニュースである。すでにサイド2の一一ヶ国が加入し、ユニオンやフォルティナも加えたこれはジオンにほぼ拮抗する経済力を持ち、サイド2でも六五%の地域に影響がある。実は共産オーブルよりこちらの方がジオンには影響があるかもしれない。
 また、国内の問題もある。マハラジャはあまりにも民意に無関心すぎた。戦時中に延長を決めた法律により、ジオンでは〇〇八八年以来、国政選挙が行われていない。次の選挙は〇一〇〇年だが、議員の任期が一二年というのは長すぎる。法律の適用がなかった地方議会では何度か選挙が行われ、革新党の議席は半数を大きく割り込んでいる。現内閣はすでに統治の正統性を失っている。クーデターを起こされるにしても、理由がある。
「ハマーンが民主主義者かどうかというのも、疑いがあるわね。」
 セイラの見る女帝は生涯の四分の一を国外で過ごしており、外交官として同盟にも赴任している。そのため、世間では彼女は民主主義に理解のある人物と見られているが、セイラの考えは違っている。民主主義を尊重するならば彼女の態度は「君臨すれども統治せず」という立憲君主制のスタイルを取るべきで、「ダイクン内閣はハマーン内閣」と言われるほど政治にイニシアチブを取っている現実はどう好意的に見ても立憲君主の姿とは程遠い。


〇〇九八年下旬
サイド2 フロンティア04
ライラ中隊


イラ・ミラ・ライラ中佐はチョロン社のプチ・モビルスーツ「シュリケン」の操縦席に乗り込んだ。内部から丸いドーム状のキャノピーを閉め、エンジンを始動する。彼らはフロンティアを制圧し、親連邦のAMRC(反マイッツアー亡命政府)を樹立はしたが、地下に潜ったクロスボーン残党のゲリラ活動は続いている。初期の鎮圧で大型で動きの鈍い「ネモ」が市街戦には不向きで、機の死角や背後から対戦車砲を受けて損傷する事件が続発したため、アドバイス


を受けた駐留軍司令官のルグランはプチ・モビルスーツによる治安維持を指図している。「シュリケン」はスタンパ共和国製造の機体で、ライラらの機体は対ゲリラ用に装甲や機関銃などを装備し、フレームが強化されている。なお、損傷したネモは全てサイド1のノースウェスト社の工場に送られた。



「アルファ1から全機、これより偵察任務に入る。」
 トトトと水素エンジンが始動し、全高三メートルほどのライラらの機体は背後に警戒する第三艦隊の兵士を従えつつ、前方の村に踏み込んでいった。すでにAMRCの部隊が彼女らに先立ってゲリラの拠点を包囲している。






フロンティア01 ガズーズ村

都からやってきたその黒服の一団は元ゼルの指揮官ジルギリの指図で配置についた。情報にあったレジスタンスの潜伏場所で、すでに村はAMRC軍に包囲されている。有能なゲリラ戦の指揮官が指揮する部隊は音もなく村を包囲し、指揮官の命令を待っている。
「ジョルト閣下とタルジー閣下を殺害した犯人がここにいるのは間違いないんだろうな。」
「間違いありません、AMRC情報部からの情報です。」
 彼らの見る村はすでに静まり返っており、住人の多くが就寝していることを示している。AMRCの統治以来、夜間外出禁止令が出されており、レジスタンス以外に夜間に行動する者はいない。指揮官は副官の方を見た。
「しかし、反応がなさすぎるような気がするのですが。」
 ゲリラが潜伏しているにも関わらず、何の警戒の様子もない村に副官が不審だと言った。斥候を潜入させるという副官の提案をジルギリは退けた。
「その必要はない。反応がないということは、我々の奇襲が成功したということだ。」
 そう言い、指揮官はトランシーバーを握り、包囲軍に前進を命じた。
「ジョルト閣下を殺害した犯人を捕えるのだ。抵抗する者は射殺しても構わん。」
 前進を始めた部隊に、指揮官はもう一言を付け加えた。
「徹底的にやれ。」
 やがて村から銃声が聞こえ、撃たれた住人や女子供の悲鳴が一帯にこだました。


〇〇九八年下旬
ガズーズ村近くの高台


の中央にある教会から炎が上がり、爆発の火柱が吹き上がった。一団のリーダーであるトダカは車を降りると、丘の上から炎上する村を見下ろした。
「無意味だ、あの村は一月前に引き払っていた。」
 トダカの背後で元ゼルの男ギリが言った。悔しそうに顔を背ける元コスモ貴族の将校をトダカは一瞥した。
(つづく)




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