Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ説話集(131)




36.スキャンダルズ

 作品での主役マシュマーの役回りは共和国作戦部長、地味な裏方であまり世間の注目を浴びることはないのですが、作品でもごく稀に彼がマスコミに取り上げられることがあります。その辺りの挿話を集めました。





巡洋艦「ポインター」

舷よりミサイル!」
「取り舵一杯! かわせ!」
 エイムズは大量の哨戒機を発進させていたから位置は空母からはまだ遠い。自分が狙われたのは「ポインター」が艦隊陣形のいちばん外側にいた艦だったからということと、最初からそういうつもりで艦を配置した司令官の作戦による。至近からの第一波をライヒは辛うじてかわしたが、ライヒの艦の近くにいた護衛艦「ミネルバ」は、それほど運が良くなかった。ミサイルの一弾が直撃し「ミネルバ」は一発で行動不能に陥った。
「艦長! ミネルバが!」
「今は逃げ出す方が先だ、機関全速!」
 重力子ソナーは使えなくなるが、ここは逃げの一手だ。矢継ぎ早に発射された多数のミサイルが「ポインター」を追う。ライヒはソロモン艦隊きってのミサイルと機動の名手だが、この操艦は命がけだ。
「前方、左舷からもミサイル!」
 やっぱりクロスボーンの総本山だ、何隻かの潜宙艦が宙域に潜んでいたらしい。ライヒは速力を上げながら急激な機動でミサイルをかわしていく。はるか後方では炎上した「ミネルバ」の光がぼんやりと光っている。四回の攻撃をかわした後、艦隊から飛来したガリバルディと哨戒型アライアンスが大量の重力子ソナーを投下しビームライフルで周辺宙域を掃射し始めたことから、ようやく攻撃は止んだ。
 ライヒの巡洋艦は「ミネルバ」が大破した宙域に舞い戻ると生存者の救助を開始した。艦隊から加わった駆逐艦「ヘンダーソン」ほか二隻も救助に加わっている。収容を終えたライヒらの艦隊は港湾攻撃を終えたヘルシングのディアス隊の後を追って、命からがら危険宙域を離脱した。






〇〇九八年四月
ソロモン共和国下院議会


弁に立つ内閣国防調査室長の後ろ姿を睨みながら、閣僚席のリーデルは厳しい顔で答弁の様子を見守っている。
「ですから、我々は目下対策を検討中です! ちょっとそこの議員の方、野次は止めていただけません!」
「ボルマン議員、静粛に。」
 議長が木槌を叩いて野次を飛ばした議員を制止している。
「政府は責任を取れ!」
「いったい国防計画にいくら掛かったと思っているんだ!」
「使えない軍艦なぞ作ってどうする!」
 パネルに対潜兵器の不足をぼやくライヒ艦長の顔が映し出され、答弁席のマクニールに野次が飛ぶ。
「我が国のグレイハウンド級重巡洋艦、ヘクター級駆逐艦は現在装備しうる最高性能のソナー装置を装備しています。潜宙艦の探知は可能で、対潜兵器の装備はまもなく派遣艦隊に配備する予定です! 使えないとは失敬な!」


「現に潜宙艦に負けているじゃないか! あんたがチェックした艦だろうが!」
 彼女の特権についても批判が飛び、議員の非難に彼女は顔を真っ赤にしている。元々烈女と評判の高い人物だが、今回は防戦一方だ。
「ご苦労さん。」
 その後二、三の質疑を経て、閣僚席に戻ってきた彼女にリーデルが声を掛けた。〇〇九五年の建艦計画に穴があったことは国防調査室長の彼女も認めるところで、それを裁可した彼にも責任のある話だが、この計画を作った張本人が現在は作戦部長をしている。
「なんとか、被害がマシュマーに及ぶことは防いだな。」
「時間の問題だと思います。すでに一部の議員が彼について調べ始めています。」
 マクニールが言った。
「〇〇九四年の計画以来、軍制改革については実務レベルはあの男、議会対策は君と役割を分けてきた。国民への知名度でもあれよりは君の方が上だしな。」
 マクニールは一年戦争時代のルウムを代表する軍人で、救国の英雄として国民に人気がある。その反面、〇〇九四年以降、同盟・共和国の軍政を担当してきたマシュマーは国民にはほとんど無名の人物である。
「賢明な判断だと思います。他国の意表を突くような作戦を立案する人物が有名であることは好ましいことではありません。しかし、今回の失態は、、」






〇〇九八年三月
ズム・シチ 公王宮殿
翡翠の間


ガスタ沖での「ポインター」の映像はジオンの公王宮殿でも放送されている。知的好奇心旺盛な公王陛下のために宮殿のチャンネルが増設され、クーデター以降はソロモンSBCやユニオンUMVなどの外国放送がハマーンのプライベートでも受信できるようになっている。彼女は今年彼女が計画しているある計画のために呼び出した男と一緒に宮殿のテレビを眺めている。彼女が恩赦を出し、今月拘置所から釈放された男は見たところ、やややつれている。
「バルザックは降格を承知の上で艦隊勤務を希望したが、卿は退役を希望するということだな。オルドリンにいる妻子はどうする。ズム・シチに呼び戻すか。すでに官舎は没収され、以前のような待遇は望むべくもないが、、」
 出所したビクトル・ドリス予備役大将にサイフォンでコーヒーを振る舞いつつ、ハマーンが言った。公王宮殿のコーヒーは絶品だったが、コルプの乱以降はめっきり質が落ちた。事後処理として近衛隊を解散し、同時に宮殿の人員整理を進めたことが影響しているのかもしれない。
 先のクーデターでは彼女もガルバン首相を始め、股肱の臣だったヘンデル夫人を失うなど、手痛い打撃を受けた。この人員整理に伴い、宮内庁の老齢職員のかなりの数が辞めている。定時退庁を規則化したため、同盟公使館以来の彼女の侍女であるレナーテなど通常職員は定時に退出し、今の宮殿には女王警護隊の夜勤警備兵しか残れないことになっている。女王がコーヒーを淹れなければならない理由である。
「妻子の件については、しばらくそのままにしておこうと思います。今の事情では、戻ってきても居場所がないかと。」
 コーヒーを啜りつつ、男が言った。
「反乱軍の妻子ということで、肩身が狭いか。」
「それもありますが、妻から当面帝都には戻らない旨の手紙を受け取っております。案外居心地が良いのではと邪推しますが。」
 提督の言葉に彼女は少し微笑んだ。
「私も公使館時代はルウムでの生活を楽しんだ。」
「存じております。」
 しばらく話をした後、彼らの話題はクロスボーン情勢の緊迫化の話になった。ジオンと同じ貴族制を敷くこの国に、彼女は個人的に興味を持っている。
(つづく)




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