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An another tale of Z ATZ資料集(12)




5.連合の季節(フリッツの行政改革)

 第三部の後日談、第四部に繋がる話として書き溜めていたものですが、今見返してみると(少し分かりにくいものの)そんなに的を外していないように思います。政権に復帰したハマーンの大蔵大臣フリッツ(兄)の改革とその影響が主な内容です。




〇〇九九年三月
ズム・シチ オーベルハルプ区
オファキム女子大学付属高校


ュドー・アーシタ少年はサイド2の廃品回収の報酬で新しく買ったオートバイで学園に乗り付けると、早足で学校の総務課に赴いた。リィナの合格証明書と入学金二万ジオニクル、そして入学願書を提出したみすぼらしい身なりの少年に窓口の女性職員は怪訝な顔をする。
「使えるなら、これも。」
 そう言い、ジュドーはポケットから取り出した奨学カルテを取り出した。一月に保護者のジュドー宛に送られてきたものだが、名門校であるオファキムに通じるかどうか、彼も疑問を持っていた。職員の女性はフンと鼻を鳴らすと受付書に「領収済」の印鑑を押して彼に差し戻した。
「これはお返ししますわね。」
 職員はそう言い、彼が差し出したしわくちゃの紙幣も含む入学金の大半を差し戻した。
「カルテがありますので、入学金は八〇〇ジオニクルで結構です。今年度分の授業料四千ジオニクルは別途請求させていただきますけれども。本校は全寮制の学校で、授業料には寮費と食事代も含みます。お高いとは思えませんわ。」
 寄付金のたぐいは強制ではないから必要ない。寄付の有無で学校は生徒を差別はしない。粗末な身なりのジュドーをジロジロと見廻しつつ、それでも大学までは費用がかかると職員は念押しした。
「卒業まで仕事はあるのかしら?」
 女性の言葉にジュドーは不遜な笑みを浮かべた。実は彼は妹の入学に銀行で教育ローンを組んでいたが、これまで銀行は彼のような不安定な身分の者には金を貸さなかった。彼女の言葉に少年は胸を張った。
「公告予備軍制度Aに所属しています。任期を終えたら軍に採用されます。」
「それなら安心ね。」
 窓口の女性はそう言い、ニッコリと微笑んだ。
「軍にも奨学制度はある。妹さんが一段落したら、あなたも大学で勉強しては?」
 いや、それはちょっと、職員の言葉にジュドーは困惑して両手を振った。緊張した様子の彼と女性職員とのやり取りを事務室にいる他の職員がクスクスと笑いながら聞いている。これまでこの私立校は年収一〇万ジオニクル以下の所得の家庭の子女を入学させなかった。学費もジュドーが納入した金額がほぼ半年分だが、文部省からの通達は保護者の収入に関わらず、大学入学への障害をできるだけ廃することを求めている。


〇〇九九年三月
ズム・シチ市 ジオン大蔵省


 文教費を増額し、奨学制度も大幅に拡充する。オルドリンから戻った大蔵大臣フリッツの示した教育関連予算の方針に省の官僚らは驚いた顔をした。すでに九九年度予算の査定は済んでおり、議会での承認は遅れているが、これも今月中には承認され、翌月には執行の手筈であった。
「公共事業は〇〇八五年の水準に戻す。文教費は教員の採


用を増やし、有給の大学研究者の実数を現在の一〇倍に増やす。」
 手始めに研究者の採用は今年は前年度の三倍とする。次々と拡充策を打ち出す大臣に審議官の一人が青い顔をする。
「そうおっしゃいますが大臣、財源はどうするのですか。」
 予算の組み替えも間に合わない。そう言った大蔵次官をフリッツは鋭い目で睨んだ。
「戦争になったつもりでやりたまえ。予算執行までの間は補正予算で持たせる。」
 やらなければクビだ、大臣はそう言って官僚らを脅すと、以降は報告を内閣官房に直接上げるように命じた。
「私も宮殿にいる。各省大臣との調整はそこで行う。あと、財源は国債で賄う。」
「財政規律が弛緩し、借金を後世に相続させることになります。」
 メチャクチャだ、次官は首を振ったが、大臣は彼らには構わず、秘書を連れて大臣室を出て行った。




〇〇九九年三月
オルドリン市 首相官邸


 フリッツからの電話に、首相の執務室にいた財務大臣エドガーはニンマリと笑った。フリッツとあらかじめ打ち合わせを済ませておいたジオン国債の買い付けはソロモン銀行とユニオン第一銀行が行うが、この二行だけでは積極策への転換が財政破綻のシグナルと受け取られたジオン国債の下落は避けられないだろう。エドガーが持参した携帯端末の画面には売りが殺到しているジオン国債のグラフが映しだされており、首相のリーデルが青筋立てて画面を見つめている。
「投資家、と言うより証券アナリストというのは本来的に頭の悪い生き物です。」
 自らも投資家で一代でソロモン最大の証券会社「ウィンストン&バロー」を創設した大臣はニヤニヤと笑いながら言った。
「ごく単純な図式ですな。収益を従業員の給与や技術開発に充てれば株主の配当は減る。つまり、株主が損をする。損をする前に売る。これが彼らの行動原理です。」
 ジオン公国は積極財政の道を選択した。投資家的判断では同国の国債は「売り」であり、加えて同国には長年の経済不況による累積赤字と利払いがある。
「年金の問題も深刻ですね。地方交付税に防衛費、年金は金額が決まり切っていて減らせない。だから公共事業と文教関係費がいちばん「与し易い」予算として浮かんでくる。ジオンのウン十年はこういう予算を死守ないし増額したウチとは真逆の財政方針でしたからね。」
「最も困窮した時期でも文教費だけは切らなかった。我々の誇りだ。」
 飄々とした文部大臣の言葉に国防調査室長のマクニールが苦い顔をした。彼女の艦隊は低予算の中、木星防衛に人並みならぬ苦労をした。しかし、彼女や雇われたマシュマーら外国人士官が奇策で敵を翻弄している間に若者たちが大学を卒業し、艦艇の国産や装備のレベルアップが可能になった。国民総生産は一〇年前の二倍に向上し、結局は赤字国債も国防費も問題なくなった。
(つづく)




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