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An another tale of Z ATZ資料集(117)




33.アガスタ派兵計画

 コルプの乱で存在感を示したソロモン共和国は翌年にサイド2ガイアに出兵します。戦艦エイジャックスの出撃からハイジャック事件まで小話集。ドレルとか鉄仮面とか本編でもあまり台詞のなかった人々が出てきます。





〇〇九八年二月
オルドリン宇宙港 アルファ基地


宙港に派遣予定の艦艇が集結している。〇〇九八年はソロモン共和国にとって新鋭艦ラッシュの年になった。長らく主力艦の地位を保ってきた初期型マゼラン級の戦艦が相次いで退役し、これもサラミス級をベースに作られたタイプ85、87も、公試を終えた艦が就役し次第、順次退役し、乗員は新鋭艦に移ることになっている。
「レイピアは外惑星では人気があるようです。やはり派遣艦隊時代の活躍の印象が強いのでしょう。ニコイチ艦の85型も昨今は治安も悪化している折、サイド2や4の諸国家から引く手あまたのようですね。サラミスより高性能でかなり安いこともあります。」
 旗艦に向かうランチでブッダ大佐がマーロウに言った。
「まあ、ジオンはムサイ級を手放さないし、連邦の新型サラミスはやや高価ということもある。新型サラミスについてはレダ星域会戦で大したことない艦だということが暴露されたこともあるしな。」
 彼とブッダは五年前のレダ星域会戦で新型サラミス級と交戦し、タイプ85や87との共同戦線でこれを敗退に追い込んだ。その後、連邦の艦政本部では新型艦の設計を大幅に見直したという過去がある。彼らの活躍で連邦の新鋭艦の配備は二年は遅れたというのは一部の軍事評論家の意見である。そのことにつきブッダがコメントする。
「レダはタイプ1でした。今のタイプ2はかなり改良されたという話ですよ。見えました、あれがエイジャックスです。」
「ほう、、」
 ブッダの言葉にマーロウは軍港に鎮座する巨大な戦艦を見た。戦艦はこれまで彼らが乗艦してきたレイキャビクと比べるとその全長は二倍近く長く、艦幅も一.五倍の長さがある。シンプルな司令塔は新型共和国艦の様式を引き継いでいるが、この艦が多くのコンポーネンツを流用した新型戦艦ライオン級と異なるところは左右に張り出した長大な飛行甲板であり、その点だけはエウーゴの戦艦「アーガマ」を連想させた。しかし、エイジャックスはアーガマよりはるかに強大な戦闘艦であり、空母を除けば主力戦艦のライオン級より大きな共和国最大の軍艦である。
「グワジン級と同じく艦にはモビルスーツ一大隊が搭載され、海兵隊が乗艦しています。機動部隊の指揮官はスーナボン・スラキアット大佐、私と階級が同じですが、担当範囲が違います。命令の際にはくれぐれもお間違えのないよう。」
「あと、機関長のワシーリ・ブニコフ大佐がいる。大佐が三人も乗艦している戦艦は連邦にもジオンにもないだろう。艦の運営は合議制で進めてくれ。グワジン級のように艦長を少将にするという方法もあったのだが、国防軍法規則で軍艦の艦長の上限は大佐と決まっていてね。まあ、スラキアットもブニコフも話の分かる人物だから、指揮権について貴官が困ることもないだろう。」
「艦隊司令官閣下、御乗艦!」
 ノーマルスーツを着て艦の舷側に登列している乗員に目を遣りつつ、マーロウとブッダは接舷したランチから新鋭艦のエアロックに乗り込んだ。出迎えたスラキアット、ブニコフの両大佐を先頭に、一,五六五名の乗員が艦橋までの通路に整列して彼らの乗艦を見守っている。
「多いな、、」
 通路に居並ぶ乗員の列の長さにマーロウは呟いた。彼らの後にはスラキアット、ブニコフ、そして新たに参謀長に任命されたバーゼル准将がいる。
「レイキャビクの五倍です、提督。」
 ブッダの言に大したものだと言い、彼は歩きつつしげしげと乗員一人一人の顔を眺め、艦内の各所を見廻した。エイジャックスはただの戦艦ではない。戦艦並みの攻撃力に小型空母の能力を合わせた万能戦艦で、レイキャビクの後継艦だ。木星時代のマーロウが艦政本部に提出したアイディアに数々の戦訓を盛り込んだこの艦が自分に与えられたことは偶然ではない。しかし、これほどの艦になろうとは、、
 艦橋に乗り込んだマーロウは乗員に簡単な訓示をすると、艦隊の出航を命じた。中央の旗艦「エイジャックス」を中心とした六隻の艦隊はゆっくりと動き出すと、港を抜け、駐留予定地であるアガスタ共和国への進路を取った。





〇〇九八年二月一九日
オルドリン市 首相官邸


ロスボーン・バンガード総統官邸が抵抗記念日に突如宣言した、カペラ・イオパラダリス街道における「無制限作戦(スインク・エム・オール)」の開始はオルドリン市の首相官邸に衝撃を与えた。ソロモン共和国は人道援助や通商交通で年間三千隻の船舶をサイド2に往来させている。フロンティアからのベネット公使からの報告に官邸のリーデルは腕組みをして考え込んだ。執務室のパネルにはクロスボーンに駐在している公使の顔が映っている。
「危険な状況です。今朝方、総統官邸の鉄仮面司令官からアルカスル周辺宙域における全ての船舶の通行禁止が言い渡されました。これには例外はなく、我が国の船舶も通行すれば撃沈するということです。」
 太った丸顔の公使が首相に状況を報告している。それに対し、リーデルが質問する。
「そもそも鉄仮面とは誰だ。」
 その言葉に公使が顔を歪める。



「クロスボーン軍の司令官です。本名はガロッゾ・ロナと言いますが、いつも重そうなスチール製の仮面を被っているのでそう呼ばれています。なお、彼が仮面を被っている理由ですが、、」
 公使の言葉を首相は遮った。
「そんなものはどうでも良い。共和国はサイド2に人道援助として毎年千万トンの食料を輸送している。このルートを断たれればコロニーの住民は餓死する。そのことはそのスチールマスクに言ったのか。」
「言いましたが、取り合ってもらえません。」
 公使が両手を広げた。
「マイッツアーは何を考えているんだ、、」
 苛立った表情のリーデルが爪を噛む。人道援助の計画は彼の支持者であるガイア難民たちの政治組織、ソロモン・ガイア政治連盟のロビー活動によるもので、共和国国民の一五%を占める旧ガイア住民は彼の重要な票田である。
 それに人道上の問題もある。彼は同席していたブルグソン国防大臣に言った。
「マシュマーを呼べ、対策を協議する。」
 すかさず携帯端末を取り出した大臣に、リーデルが待った、と、手を上げる。
「状況説明も頼む。スチールマスクやクロスボーンについて、きちんとした説明をできる人物も連れてくるように言ってくれ。」
 ブルグソンは携帯端末のボタンを押し、国防省に回線を繋いだ。






〇〇九八年二月
フロンティア01 ラフレシア港


ロンティアに到着したジェリドらはサイド2の小国の意外なほど整った施設に驚いている。彼らをグリプスから運んだ「ギア」は全長四七二メートルの大艦だが、この巨艦を停泊させるドックはすでに作られていた上に、重機やクレーンなど支援設備も万全なものが整っている。コロニーの内部である港内にはさほどの火器はないが、外壁の港付近はほとんど要塞化されており、戦艦クラスの攻撃でも撃退しうるほどの要塞砲や火器が整備されている。侵入者はコロニーにたどり着く以前に防御陣地に撃墜されるだろう。
「グリプスほどじゃないが、すげえな、これ。」
 彼らを案内しているドレル・ロナ准将からクロスボーン国の人口が五〇〇万人と聞いて彼らは二度驚いた。地球はもとより、どこのサイドにもある、ありふれた小国程度の人口ではるかに強力な軍事力を整備している。案内がてら、ジェリドは見覚えのある機体を見た。
「あれ、メッサーラじゃないか。」
 塗色こそ紫から黒に変更されているものの、ティターンズが開発した機体が港の首都防衛隊基地に駐機している。試作機ではなく、実戦配備の機体であることは明らかで、巡洋艦クラスのレールガンとバルカン砲を装備している。
「設計データはカミュ技術中将からご提供いただきましたが、機体それ自体は当方で製作しています。我が国にはすでにモビルファイター・デナンゾンがありますが、高速迎撃用の機体が必要な事情がありました。このように、我が国とティターンズとの友好関係は強固なものがあります。よろしければ試乗の手配もいたしましょう。」
「しかし、失礼ながら貴国のような小国がこれだけの機体を配備するとなると、予算は苦しいのではないですか。」
 エレカに同乗していたカクリコン少佐がドレルに尋ねた。国民負担は相当なもののはずだ。ティターンズ少佐の質問に准将は少し笑った。
(つづく)




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