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An another tale of Z ATZ資料集(114)




32.和平会議の裏側

 クロスボーンが滅亡し、ソロモン首相リーデルはオルドリンにサイド2諸勢力の代表を集めて和平会議を提案します。会議そのものは第36話に進行の様子がありますが、その裏側の話。





〇〇九八年五月
アルテミス街道
リージェント社旅客船「ロガール」


マ・シーン少佐はサイド5に向かう旅客船のラウンジで見覚えのある盆栽頭のソロモン艦隊の士官と乗り合わせた。アガスタ派遣艦隊の交替があり、旗艦である戦艦エイジャックスはシャリアに残るものの、第七戦隊は第五戦隊と交替し、旗艦の乗員も半数は帰国ということで旅客船に乗り込んでいる。大きな戦いがいくつもあったため、マーロウ中将の指示で交代時期を一ヶ月前倒ししている。エイジャックス艦長のブッダは交代要員に含まれていないが、帰国する乗員の引率ということで船に乗り込んでいる。
「まあ、そろそろ時期だったんじゃないかと思います。戦闘航海も二週間を過ぎますと乗員の士気は下がります。これはどこも同じなんじゃないかと思いますが、食事を良くしたり、レクリエーションをしたりして何とか持たせているんですね。しかも、クロスボーンとの戦いは多くの乗員に取って初の実戦でした。」
 エマと談笑しているブッダはクロスボーン戦の前後でエイジャックス艦内で幾人かの乗員が錯乱した話をした。組織であり人間の集団である以上、平時であってもトラブルの発生は避けられない。それは彼女のエウーゴも同じである。
「でも、あなたまで艦を離れたらまずいんじゃない?」
「マーロウ提督がいますし、クロスボーンも崩壊して当面動きはないでしょう。それにエイジャックスも来月にはアルティメットとの交替が予定されていますしね。」
 ブッダはそう言い、オルドリンでの和平会談について書かれた新聞を取り上げた。
「うまく行くと良いけれど、、」
「さあ、あまり期待しない方が良いんじゃないでしょうか。」
 クロスボーンは滅びたが、オーブルと正統政府との緊張は続いている。停戦が成立したとしても、それは一時期のことだろうとブッダは言った。






〇〇九八年五月
ソロモン国防省 作戦部長室


国の代表団が到着し、サイド2諸国の代表が続々とホテルの会議室に入室していく様子がテレビに映っている。会議は非公開だが、協定締結後、代表団が一同に会した共同記者会見が予定されている。が、そう簡単には行かないだろうとは午前中にマシュマーの部屋を訪れたハウスの言葉である。マシュマーは午後に予定されている艦隊大学の講演資料を準備している。部屋にはカーターの姿もある。
「この会議の台風の目はオーブルのウズミラ・ヤコビッチ・ブリャーヒンだ。昨年まではほとんど無名の人物だったが、結構したたかだと聞いている。」
「ウズミラ氏はオーブルでは国際派という評判だろう。」
 与し易いのではないか、と、マシュマーはハウスが持参した報告書を机上に置いた。オーブル軍は二月の戦いで大損害を受けたばかりで、共和国の和平提案は渡りに船のはずだ。ジオンや連邦で人民主義を広めた辣腕家ウズミラの資料は彼も読んでいる。
「ウズミラ氏については君の言う通りだが、だからといって、彼が平和の使者というわけではない。我々の数少ない情報源ではむしろ主戦派という評判だ。」
 そう言い、ハウスは一枚の写真を見せた。テレシコワの新聞に掲載されたロハチェフスキー元帥の国葬の際の共産党本部の雛壇の写真だ。彼はウズミラを指差した。
「前の党大会の時には彼の席はなかった。しかし、今は主席トワイニングの右から六番目、過去、これほどの速さで出世した党員はいない。ましてや外交部出身の委員では異例のことだ。」
「このくらいしか情報源がないわけか。」
 粒子の荒い写真を睨んだマシュマーに、まあな、と、ハウスは肩をすくめた。


「あと、これは協力者によって入手したスモレンスク市の地方新聞の写真だが、彼らしい人物がオーブル軍の車列の間に映っている。二月に異例の昇進をした人物が三月にはツェントルにいる。この二つは関連したものと考えるのが自然だ。」
 オーブル軍の外套を着こみ、サングラスをしたウズミラらしき点の集まりをマシュマーはしげしげと眺めた。
「いや、これを彼と言っても、、」
 ハウスはウズミラだと主張しているが、服装が厚着の上にロシア帽にサングラスまで掛けていては見分けようがない。マシュマーは机からルーペを取り出した。ウズミラらしき何かよりは分かりやすいものとして、車列の中にはモビルスーツ輸送車もある。二月の戦いにはこれはなかったはずだ。エウーゴがオーブルへの肩入れを強化しているという報告はシャリアのマーロウから受けている。
「もしこれが彼なら、、オーブル軍機械化の主導者か。」
 そういうことだ、ハウスは言い、マシュマーの前に拡げた写真をブリーフケースにしまいこんだ。
「戦死したロハチェフスキーの後釜として機械化部隊の主導権を握ったウズミラは成果を挙げたいはずだ。そしてそれは現在のオーブル指導部の思惑とも一致する。私が見るところ、今のオーブルには和睦すべき理由がない。」
「官邸に報告するのか?」
 すでに各国代表がオルドリンに到着し始めている。リーデルはサイド2の和平実現に特に注力しており、水を差すことになる。彼の言葉にハウスは首を振った。
「マシュマー、我々は軍人だよ。」
 求められない限り報告はしない。君も喋ってくれるな。ハウスはマシュマーに釘を刺すと、ブリーフケースを持って部屋を出て行った。
「どういうことなんです?」
 渋い顔をしているマシュマーに同席していたカーター少将が声を掛けた。
「油断するなということだ。」
 マシュマーはそう言い、講演資料を持って席を立った。






〇〇九八年五月一八日
オルドリン市 ホテル・アロイス


マーンが外遊中なのは幸いだ。かなり長期に渡りそうだし、今度の会議で彼女が影響を及ぼすことはないだろう。」
 オルドリン市内の安ホテルに逗留しているウズミラは秘書官のカーティスに言った。オーブルの特使として共和国入りしたウズミラだが、本当はこんな会議よりもツェントルで機械化部隊の指揮を執っていた方が良いと思っている。秘書官のカーティスは大学を卒業して入党した党の若手でテレシコワでは外交部の仕事をしている。
「しかし、主席代行があのウナトね、これなら私がやった方がマシかもしれん。」
 ウズミラはそう言い、ホテルの安机の上に積み上げられた新聞の束を手に取った。盗聴器が仕掛けられている可能性があるというテレシコワからの指図で共産党本部に近いこのホテルが指定されたが、ホテルの地階はキャバクラで、どう見ても外交使節団が宿泊するホテルには見えない。そのせいか、報道ではオーブル使節団は共和国に到着後、レミュール街のどこかに姿を消したことになっている。共和国から申し出のあったオルドリン市の高級ホテル「ザ・ラクストン」を拒んだテレシコワの判断に彼は疑問を持った。
 と、その時、彼らの部屋をノックする音がした。
「ルームサービスです。」
「どうぞ。」
 秘書官がドアを開き、黒色の服を着たルームサービスがトレーを持って部屋に入室して来た。その制服を見た秘書官のカーティスは思わず目を丸くした。ウズミラも少し驚いた。
「これは、、このホテルの制服なのかね。」
 漆黒の共和国軍の制服を指差しウズミラがホテルマンに尋ねる。特使の言葉に略綬と大佐の襟章を付けたホテルマンは肩をすくめると事情を説明した。
「このホテルは私の実家なんです。休暇の時はこうやってアルバイトをしていまして、先月までアガスタにいました。」
 アロイス大佐はそう言うとコーヒーとサンドイッチを載せたトレーをテーブルの上に載せた。
「あと、チェコフさんから言伝です。」
 アロイスはそう言い、共産党本部からの封書をウズミラに手渡した。
「それでは、ごゆっくりとお過ごしください。」
 一礼して退出して行ったホテルマンに封書を持ったウズミラと秘書官は呆然とした顔をしている。
「機密保持はもうまずいんじゃないのか。」
 露骨に軍人のホテルマンにウズミラは顔を引きつらせている。秘書官のカーティスは顔面蒼白だ。
「ええ、私もそう思います。」
「ホテルを指定したウナトは外国音痴でアルカスルから外に出たことがないからな。奴らしい杜撰さだ。」
 大方、党本部にある古い観光案内でも見て指定したんだろう。ウズミラはそう言い、その後、彼らがキャンセル料を支払って市内の別のホテルに移ったことは言うまでもない。
(つづく)




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