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An another tale of Z ATZ資料集(107)




30.ズム・シチ大水害

 旧大西洋連合によって作られ、他のコロニーとは気象コントロールの構造を異にするジオンの首都星ズム・シチ、ハマーンの外遊中、年々削られる土木予算に危機感を抱いていたゴットン大佐と第一連隊を制御不能の大災害が襲います。第四十二話「遠雷」関連。





〇〇九八年七月二六日 午前〇時
ズム・シチ市 ゴットン連隊本部


雨は激しさを増している。近づいてくる雷に、ゴットンは連隊長室の窓から外の風景を凝視した。風速は二〇メートルを超え、突風が雨粒を窓に叩きつける。彼は一四年間陸軍に在籍してきたが、こんな嵐は初めてだ。まるで話に聞く地球のハリケーンのようだ。近くの河川や湖で警戒に当たらせている隊員らの報告によると、近くのジオン山からの流水もあり、湖の水位は危険水位に近づきつつある。
「大佐! ウンテルシュタットの堤防が決壊しました!」
 バタンとドアを開け、連絡係の兵士がゴットンに先週施工したばかりの堤防が決壊したことを伝えた。
「第一連隊、出動!」
 施工したアレクサー社の堤防工事の質を彼は危惧していたが、それでもある程度は持ち堪えるはずで、決壊するのが早すぎると連隊の出動を命じたゴットンは思った。危険水位を超えたら避難命令を発令すべきと考えていたが、堤防の決壊で話が変わった。彼は各大隊の任務を避難誘導から災害救助に切り替えるよう命じた。彼が工事を担当した地区の基準高は低く、すぐに溢水するため、決壊がこれほど早くては多くの住民は逃げ遅れ、各所で孤立することが考えられた。
「ザクを出動させろ! 決壊の拡大を食い止める!」
「ヤー!」
 喰い止められればの話だが、モビルスーツのパワーは工事車両より強大だが、それでも決壊の規模が大きければ手に負えない。連隊には一〇機のザクがあり、うち二機は水中作業用のマリンザクである。次々と出動していく連隊の車両に、ゴットンは従兵に司令車に急ぐように言った。災害救助法の規定があり、災害時の陸軍の出動に法的な問題はない。
「第一大隊は逃げ遅れた被災者の救助、第二、第三大隊は隣接するラム区、ヘルマイヤー区、グスタフ区を封鎖、住民を避難誘導せよ。工兵隊、モビルスーツ隊は決壊地点に急行せよ。」
 司令車から通信機のマイクを持ってゴットンが各大隊に指示を下していく。非常時の際の対応マニュアルは整備されており、命令は着実に遂行されるだろう、運転手を叱咤し、彼は決壊した堤防に急いだ。





〇〇九八年七月二六日 午前〇時三〇分
ズム・シチ市 ウンテルシュタット区


れは、、」
 湖岸堤防の近くで司令車から降りたゴットンは目の前の光景に慄然とした。整備したはずの堤防がそっくり持ち去られており、何万トンもの水が奔流となって市街地に流れ込んでいる。到着したザクが連隊本部から補修機材を手配しているが、流出する水流の流れは速く、加えて湖面には高波もあって、ザクといえども現場には近づけないような状態だ。
「幸いなことに、隣接する堤防は持ち堪えています。これ以上の決壊の拡大は当面ないかと。」
 現場を調べた工兵隊長のコップがゴットンに報告した。隊


長によれば、これらは以前の工事で整備された堤防で高さも十分あり、これらがこの水嵩で決壊することはまずないだろうという話である。それでも被害の拡大はありうるので、天候が回復次第補修は必要だと工兵隊長は彼に言った。
「可能な限り迅速に補修作業に掛かってくれ。」
 話があるというコップに、彼は工兵隊長を司令車に誘った。
「ゴットン大佐、私も危惧していたのですが、アレクサーの堤防はコンクリートの一枚板でした。高さも河川法の基準ギリギリで、万が一の心配は私もしていました。」
 水嵩が堤高を乗り越えた場合、落下した流水は堤防の基底に勢い良く叩きつけられる。それが渦を巻き、凄まじい勢いで地盤を掘り返して堤防の土台を脆化させ、加えて水圧が壁面に加わり、堤防を一瞬で崩壊させた可能性があると工兵隊長はゴットンに言った。
「思うに、溢水から決壊までは一分もなかったはずです。」
 水嵩が堤高を超えてから、おそらく一〇分程度の間に水流は一枚板の堤防のブロックをドミノ倒しのように次々と押し倒し、旧堤防で決壊が止まるまで、長さ九五メートルの決壊口が湖にできたという。前の工事でゴットンが造作したような減勢工があれば、おそらく湖水は堤防を乗り越えるだけで、決壊までは防げたはずだと土木工学の学位を持つコップは彼に言った。
「ザクなら止水できない長さではない、しかし、この風雨では、、」
 作業が開始できるまでにいくつの街区が水没するか分からないとゴットンは司令車の中で唸った。その時、到着したザク隊の隊長から通信が入る。
「連隊長、止水作業に入ります、許可をお願いします。」
「駄目だ、流れが早すぎる。」
 無線機を持ったゴットンは司令車を出た。車外には機材を持って到着したキルマー大尉のザクがおり、ゴットンに作業許可を求めている。
「ザクのパワーならやれます、連隊長、作業許可を!」
 風雨の叩きつける中、ずぶ濡れになったゴットンは決壊した堤防を見た。暗闇の中、黒々とした水の流れが轟々と湖から噴き出して市街地に溢れ出している。
「このままでは四街区が全滅してしまいます!」
 彼より高い位置にいるキルマーが街区に溢れる洪水と配線がショートして次々と灯が消えて行く市街地を見て叫んだ。彼の言う通り、確かにこのままではウンテルシュタット以下の街区は助からないだろう。この地区と周辺の家屋は七千戸はある。住民の避難誘導はしているが、決壊の早さから街には避難が間に合わず、まだ家屋に取り残された住民が多数いる。ここで止めなければ、、
「分かった、キルマー大尉、作業に掛かれ。」
「了解!」
 モビルスーツ隊隊長の機体はエンジンを始動すると部下のザクと共に波の荒い湖面に機体を沈めていった。決壊地点付近は比較的水深が浅いが、深みに嵌ればザクとて安全は保障できない。加えて、連隊のザクは工事資材を抱えている。
「責任は私が取る。」
 作業を始めたザクを見て、ゴットンは司令車に踵を返した。代わりに工兵隊長がザクと工兵隊に作業の指示を始めており、うまく行けば被害の拡大はここで食い止めることができるかもしれなかった。風速は三〇メートルを超え、風と雨は激しさを増している。





〇〇九八年七月二六日 一時
ハーフェン宇宙港 戦艦グワンバン


都星で大規模な嵐が発生し、堤防が決壊して被害が拡大しているという報告は旗艦グワンバンのリューリック司令官にも届けられている。
「コロニー貫通マシンで湖底に穴を開けるというのはどうだ。」
 モニタに映る第一艦隊のホフマン司令にリューリックはドリルマシンの使用を提言した。首都の被害は拡大しており、多くの家屋が水没している状態だ。ドリルマシンが水門の役割を果たし、水位がいくぶん低下するはずだとリューリックはホフマンに言った。
「早速手配します、しかし、軍務省は何と?」
(つづく)




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