Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(10)




3.巡洋艦ポインター出港編




〇〇九八年二月一日
オルドリン宇宙港 アルファ基地


※二九話は「戦艦エイジャックス出撃」というタイトルなのですから、当然こういう場面は入れるべきなのですが、他に入れる場面が多すぎ、出航前の話だけで半分以上行ってしまうという理由でカットした場面です。

やあ、まさか見送りに来ていただけるとは思いませんでした。」
 宇宙基地の桟橋で、真新しい共和国第一種軍装に身を包んだ佐官の男が頭を掻き掻き日格式張ったドレスを着、傘をさした老齢の女性と話をしている。彼の背後には先月就役した新しい巡洋艦があり、桟橋には彼らのほかにも大勢の乗員やその家族、恋人たちが出航前の別れを惜しんでいる。
「銃後の女が殿方を見送るのは当たり前のことですわ。それにライヒさん、あなたはこれ見よがしに二月一日、二月一日と私たちに話していましたし。」
 日傘をさした女性が皮肉っぽい口調で言った。コンスタンツェ・ドリス夫人は今春オルドリン大学に編入学するアルマの母親で、すでにアルマは大学での異文化適応学習のプログラムに参加しているため、この桟橋にはいない。ライヒは昨年の一二月から二ヶ月間、情報部長ハウスの命令でマシュマー邸に居候し、ドリス妻子の護衛にあたっていた。
「チェーンさんもいませんね。彼女は何か?」
「あの家政婦は他にやることがあるとか言って、ここには来れないそうよ。」
 夫人の言葉にライヒは肩をすくめた。その様子を見て、夫人が背後の巡洋艦について彼に尋ねる。
「前の船より大きいようね。前のあなたの船はサラミスでしたけれども、今度の船は本当に大きい。主人の船よりは小さいけれども。」
「サラミスじゃなくてタイプ87、、いや、、確かに、大きな船です、一応巡洋艦なのですが。」
 戦艦グワジンやドロスと比べられても困る。夫人と背後の巡洋艦を見比べつつ、ライヒは思った。コンスタンツェの夫はジオン軍では本国艦隊の司令官で、グワジン級やドロス級、グワンバン級の艦長を歴任していた。ドリスが昨年の反乱で愚かにもコルプに加担しなければ、彼が夫人や彼女の娘と会うこともなかっただろうなとライヒは思った。そう思っている彼に夫人は一枚の写真を差し出した。
「あなたにはこれが必要ね。ジオンから連れ出された時には首を絞めてやろうかと思ったけど、あの子にとってはこの方が良かったみたい。」
 夫人から差し出された写真を見たライヒは目を見張った。
「あの、良いんですか、、義母さん、、」
「その言葉はまだ早いわ。」
 そう言い、夫人は日傘でライヒの頭をポンと叩いた。


巡洋艦「ポインター」

※同じくアルマとの名残を惜しむライヒ大佐、せっかく恋人ができたのにお気の毒な話ですが、書いていて体がむずがゆくなるというか、あまりにもクサすぎてカットという場面です。なお、ポインター副長は後にムバラクから元レイキャビク・センサー士官のハリスに変更されています。

艦エイジャックスから出航命令が下り、粛々と動き始めた巡洋艦の艦橋で、艦長のライヒ大佐は所在なげな視線で桟橋の方を眺めていた。艦橋からも見えたドリス夫人の日傘はすでに見えなくなっている。広大な軍港区画を行く巡洋艦は港近くにある展望塔の一つを通過した。これは軍港区画と民間区画の境目にある施設の一つで、ここを通過すればまもなく艦は港の開口部に達し、艦は宇宙の


海に出る。
「結局、最後まで会えなかったな。」
 ライヒは淋しげな顔で副長のムバラク少佐の顔を見た。情報部長のハウスに「役立たず」ということで押しつけられた護衛任務だが、それほど不快な勤務でもなかった。買い物に付き合ったり、馴れぬ共和国での生活でいろいろアドバイスしたり、大学の進学相談に乗ったり、ジオンから移民して以降も女性とは縁のない生活を送ってきた彼にとってはある意味、毎日が任務とは違った刺激に満ちていた。



「恋をすると目の前の光景が変わるといわれるが、私もようやくその意味が分かったような気がするよ。まあ、良い夢を見させてもらった。それで良しとしよう。」
 しかし、相手はジオンの名門の令嬢、庶民出身の自分とは比べものにならない。歳の差もあり、自分にはやはり手の届かない相手だったのかもしれない。
「少しばかり諦めるのが早すぎるような気がしますね、ライヒ艦長。」
 ムバラクが艦長の肩に手を置き、展望塔の方を指差した。彼に促されて塔の方を見たライヒはそこで手を振っている人物を見て驚いた。
「たぶん元シェパードの乗員の中で、彼女のことをいちばん分かっていなかったのは、あなただったと思いますよ。」
 展望塔から彼を見送るアルマとチェーンにライヒは思わず頬を赤くした。
「帰ってくる頃には、別の恋人ができているかもしれませんがね。アガスタでの任務は長引くかもしれません。」
「そんなことはないさ、待ってくれる。根拠はないが、そう信じたい。」
 ライヒはそう言い、展望塔にいる恋人に帽子を振った。





アルファ基地 1AE展望塔

※同様に、当然あるべきだがと思ってはいるものの、いかにもなのでカットという場面。チェーンが家政婦をしつつもパイロットの訓練を受けていることがポイントです。ソロモン共和国は日本じゃありませんので、正規軍のほか、それに数倍(筆者の見方では七〜八倍)する予備役兵力があり、商船隊の船長には徴用時のために軍の階級が与えられています。

習所から大急ぎで飛んできたけど、どうやら間に合ったようね。」
 出航する艦隊を見下ろす展望塔の窓辺で、ソロモン共和国軍の尉官の軍服を着たチェーンが艦隊を見送るアルマに声を掛けた。アルマも大学の入学前ガイダンスの途中で、各々の居場所を抜け出してきた彼女らは顔を見合わせて互いにクスクスと笑った。やがて艦隊が見えなくなり、振っていた手を降ろしたアルマにチェーンは彼女のオートクチュールのキーを渡した。
「それじゃ、アイリスの迎えをお願い。私は基地の第六区画で降ろしてくれれば結構だわ。それまでは運転のコーチはこの私、しっかり頼むわよ。」
「はい、チェーンお姉さま。」
「あと、コンスタンツェおばさんも拾っていかなければね。」
 そう言いつつ、どこまで本気なのかしら、と、チェーンはアルマの横顔を見た。彼女の想人がマシュマーではなくライヒと知った時には内心安堵したチェーンだったが、ライヒの艦
(つづく)




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