Mobilesuit Gundam Magnificient Theaters
An another tale of Z ATZ資料集(8)




3.「ドリス夫人、私立探偵を雇う」編




オルドリン市 チャタム地区
マシュマーの居宅


※三三話でクロスボーンの亡命士官ツベクロマ氏のエピソードが描かれますが、その後といった感じのエピソードです。

った探偵から送られてきたデジカメ写真を老眼鏡を掛けた夫人が居間でしげしげと眺めている。夫人の隣にはアイリスがいる。
「私財を傾けて何をやっているかと思えば、人権無視、人格無視の所行よねえ。」
 印刷された写真の一枚を手に取ったチェーンが言った。写真には喫茶店で楽しげに談笑するハウスとアルマの姿が映っている。
「恋愛ぐらい自由にさせたって良いじゃない。もっとも、相手がハウス情報部長では脈はないけれども、彼には奥さんがいるのよ。」
「そうは行かないわ。親には娘の相手を決める権利がある。」
「ここは人権のないジオン国じゃないのよ、コンスタンツェおばさん。アルマもキャンパスで良い人を見つけるかもしれないわ。まさにロマンスね、素敵だわ。」
 そう言い、チェーンがウットリとした目で壁に掛けられた絵を見た。ツベクロマ氏から送られてきた夫人の肖像画だが、マシュマーの指示でここに飾られている。
「何もこんなババアをこんなにマジメに描かなくても。」
「何という破廉恥な女!」
 チェーンの誹謗に夫人は顔を赤くした。
「破廉恥とは何よ!」
「いいこと、アルマはそんじょそこらの木の股から生まれた女とは違うのよ。栄えある本国艦隊司令官の娘、公室貴族であり、祖先はババリアの貴族の血を引く名門トワニング家に生まれた娘なのよ。あなたのような木の股女のあばずれとは根本的に違うのよ!」
 ツベクロマ作の肖像画を前に夫人は胸を張った。あの画家、高貴な血筋の何たるかをちゃんと分かっているわ。見たか賤民といった目で、夫人はチェーンを見下ろした。
「言いたい放題言うわね、何が貴族よ! 天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず! 共和国にそんな差別はないわ! アルマには好きな人を選ぶ権利があるっ!」
「ジェネレーション・ギャップかしら、あなたの考えにはついていけないわ。あさっての方向に飛んでいすぎていて。」
「私も化石ババアの妄言には付き合っていられないわ。何が木の股よ!」
 ふと気がつくと二人の諍いを見たアイリスが泣き出している。








ローレンス&ナブスター書店

※ジャミトフの権力の源泉の一つである著書の印税収入、ビリオンセラーは当たり前というこの宇宙世紀の大作家の本は各地で売られ、莫大な収入を彼にもたらしています。タイトルからして誰がモデルかは分かると思いますが、創作時にはペルーの作家バルガス・リョサをモデルにしていました。途中からもっと面白い人に変えましたね。

ったあった、この本、探していたのよ。」
 オルドリン市中心部のハロルド・サーカスにある本屋で、アルマが一冊の本を手にとった。ジャミトフ・ハイマン著「狂ったオレンジ」、ジオンでは発禁本として大学院生以外読むことができないという。アルマの説明にチェーンはふーんと頷いた。
「ジャミトフはジオンでは危険思想家という位置づけなの。オルドリン大学で文学部の先生が彼の本を取り上げた時には驚いたわ。他にもたくさんあるわね。」
 本屋の一角に「ブラックホールの季節」、「ダイノソアの杜」、「ノーと言える連邦」など、ジャミトフ関連の本が山積みになっているのを見たアルマが言った。
「全部買っちゃったらどう?」
「でもチェーン、お母様からもらったお小遣いはそんなに多くはないの。知ってるでしょ、私たち、ジオンから着の身着のままで亡命してきたから、お金はそんなにもっていないって。共和国から給付金が出ているけど、迷惑は掛けたくないわ。」
「しょうがない、私が買ってあげましょうか。」
 チェーンの言葉に長身のアルマが肩をすくめる。ジオンからやって来てマシュマーの家に居候しているアルマ・ドリスは背の高い女性で、身長は一八〇センチ以上もある。チェーンも一七二センチと女性としては背の低い方ではないが、アルマはさらに長身である。自分より一〇センチ以上も上にある彼女の頭をチェーンは見上げた。
「まるで首長竜(プレシオサウルス)ね。」
「首長竜?」


ジム・ベンソン/ABCテレビ「恐竜家族」

「知らないの? アイリスの好きな恐竜ドラマに出てくるご近所の恐竜。体が大きすぎて家に入れないから、いつも首だけで出てくるの。首長おばさんって私は呼んでいるけど。」
「ひどい!」
 チェーンの指摘にアルマは顔を赤らめた。と、その時、彼女らに声を掛ける女の声がした。
「もしもし、これ、あなた方のものじゃありません?」
 トントンとチェーンの肩を叩いた女に振り返ると、丸眼鏡を掛けた亜麻色の髪の女が財布を彼女に差し出した。
「チェーン!」
 大きなピンク色のガマ口財布にアルマが声を上げる。
「あ、これ、私の財布!」
「お気をつけになった方が良いと思いますわ。」
(つづく)




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