討論会議事録(第2話未収録分)


参考掲示板 フラガ評論集作品第2話 (発言17以下未掲載分)
※斜線発言は上記掲示板の該当部分

[17]25〜ラスト「最大の敵」2投稿者:フラガ投稿日:2009年12月 6日(日)

副題は「マシュマーの新しいチャカ」

 ちょっと前の話が長くなったので延長です。実は前回はペンダントで終わっていたんですが、今回は改訂されてシーンが増えてます。同盟艦隊の旗艦「トーメンター」ですね。
「分厚い装甲とハリネズミのように突き出された多数の艦砲は、この艦が長期の洋上パトロールなどではなく、一年戦争のような舷々相撃つ激しい戦いを前提に作られたことを示している。」
 メカ紹介の絵を見ていただけると分かりますが、いかにも厳めしい戦艦です。以前はアップの絵もありました。木星では使っていなかったのですが、ヤゾフ組長の指示で復活です。このヤゾフ組長も前回はセリフ無かったんですよねえ。絵はあったんですが、「彼に喋らせろ」という前回のゲストブックアンコールを作者さんは反映したようです。あと、キャサリン・マクニールもそのうち出してくださいね。同盟軍前史の話は読みたいと思います。同盟軍の創始者はこのヤゾフとマクニール、そしてガーフィールドの三名です。以前は「インタビュー」というコーナーがあって、ゲストブック討論でも話題になりました。
「貴官は『グワバン(the Guwaban)』を沈めるのではなく、木星艦隊司令官と共に名誉ある撤退に追い込むべきであった。」
 ついにヤゾフ初台詞です。「ザ・グワバン」という言い方に気をつけましょう。作者の小林さんは戦艦グワバンはいつも”der Guwaban”と男性形で書いています。これはジオン語なんですが、すぐ気づくこととして他の船はみんな女性形なんです(アサルムとか)。「グワバン」と「リゲルグ」だけが男性形です。つまり、1話でマシュマーが呆気なく沈めた戦艦グワバンは普通の船ではなく、「デア」と畏敬の念を込めて呼ばれる「特別な船」だったんです。「木星の守護神」といった感じでしょうか、同盟艦隊司令のヤゾフまで冠詞付きでこの船を呼ぶと言うことは、これは意味のあることなんです。
「クルトの時代なら私はそうする。」
 クルトさんというのはキャラ紹介欄にあるイチゴ大福を喉に詰まらせて死んだハマーン以前のジオンの司令官です。つまり、彼の時代にはジオンと同盟は抗争しているにしても暗黙の合意みたいなものがあったようですね。その辺を匂わせる記述です。
「『グワバン』の喪失は、単に同型のグワジン1隻を派遣すれば埋め合わせが付くというものでは全然無いのじゃ。」
 「神は死んだ」無神論者マシュマーが戦艦グワバンを撃ち落として以降の木星情勢は緊迫化します。やっぱりコイツが諸悪の根源かと。軽はずみな鉄砲玉マシュマーを諫める老組長ヤゾフさんです。やっぱ時代劇ジオンと何年も戦っているような人は同盟でも迫力がありますね。
「どう見ても帳尻が合わん。」
 彼ならきっとあのマシュマーの狂気の作戦、「時速20万キロの急降下」なんて許さなかったでしょう。彼はもっと大局的に時勢を見ています。しかし、若頭の鉄砲玉とノリの良い部下のせいでグワバンは沈んでしまい。もっと巨大な敵、地球連邦が動き出します。この辺は作者が解説を加えていますね。
「ヤゾフの言にマシュマーは沈黙した。木星圏を巡る複雑な勢力関係、バランス・オブ・パワー(Balance of power)。彼がその一角を崩したことで、ジオンのみならず同盟の木星での権益が最大の危機に晒されている。そのことを彼は理解したからである。」
 タイトルの「最大の敵」の姿が浮かんできます。ジオン会と同盟組がドンパチやっている場合じゃありません。マシュマーがハマーンと戯れている場合でもありません。木星にもっとすごい相手がやってきます。そのためにヤゾフ組長が手入れした同盟の新しいチャカ、戦艦トーメンター、彼はこれを新組長マシュマーに手渡します。
「貴官にこの艦と、派遣艦隊全軍を委ねる(2-28)。」
 短い台詞ですが、「木星の防人」の彼にとっては万感を込めた台詞のはずです。第3話で問答無用で引退させられてしまう司令官ヤゾフ氏ですが、彼の登場シーンはもう一度は欲しいですね。カッコ良かったです。


[4]Re: 「右端で折り返す」を使いましょう投稿者:越川紀彦投稿日:2009年11月22日(日)

「一人の人間の人生は使い捨てのように扱われて良いものではない(2-11)。」
こういう小説で、ありそうで無い台詞ですよね。マシュマーの台詞ですが、この台詞で私は「ああやっぱり彼は『バラの騎士』だな」と思いましたね。前回は気づかなかったのですが、ここでマシュマーという人物が我々にグッと近い人物に引き寄せられるんですよね。ハマーンの人生は父のマハラジャに取っては「道具」であり、出来が悪かったらまた作れば良いくらいのものだと彼女は認識していますが、そうじゃないんだよと。それが極めて人工的なプロセスで生まれた「命」だとしても、それは大事なものなんだという彼の考えが出ているところです。
富野のZZのマシュマーは「バラの〜」と言ってもハマーンの何を守っているんだか分かりませんでした。彼女の美貌なのか、人柄なのか、たぶん欲情だと思いますが、小林マシュマーはそんなんじゃないですね。富野マシュマーは最後は文字通りハマーンに「使い捨て」にされるのですが、小林マシュマーは何よりも彼女の存在、「生命」そのものを身を挺して守るんですよね。やっぱ「騎士」ってこれじゃないかと思うんですよ。彼の場合、彼女を守ることは自分の生き方、信念を守ることに直結している。改めて思いましたが、こういう感情は欲情なんかよりはるかに強い。そしてそれは我々自身の生き方にも響くものですね。小林さんがそこまで考えて書いていたかどうかは分かりませんが、私は小林マシュマーは富野よりはるかに「騎士らしい」と思いますね。そして、そういう男に守られているから、ハマーンは平田さんのご指摘のように「すごく色っぽい」んじゃないでしょうか。その辺の印象は実は私も同じですがね。
「それが貴官の輝かしい戦果の、おそらくは代償じゃの(2-28)。」
改訂版で増えた描写ですが、ここで疑問に思うのはマシュマーの上官ヤゾフは「あの関係」を知っていたか否か。先を知っている私が言うと、「知らなかった」はずですね。この関係が露見するのはもっと後の話ですから。しかし、戦艦トーメンターを整備してマシュマーに手渡す彼は明らかに木星艦隊との共同を意識していますね。つまり、「ハマーンと手を組め、おまえならできるだろう。」といった感じ、これは推測なんですが、どうも彼の時代にも彼が「グワバン」を沈める機会は何度もあったのではないでしょうか。
「貴官は『グワバン(the Guwaban)』を沈めるのではなく、木星艦隊司令官と共に名誉ある撤退に追い込むべきであった(2-27)。」
これは明らかに「顔を立ててやれ」的な言葉ですよね。たぶんあったのでしょう、でも、彼は沈めなかった。主としてマシュマーとハマーンの視点で進むこの話ですが、もっと上の視点もあった、これはそういう感じですね。同盟が勝ちすぎてしまうとジオンよりももっと強い地球連邦が出てきてしまう。そうなったら防ぎようがない。「木星圏の防人」ヤゾフのそれが戦略でしょう。後で本当に連邦が出てくるのですが。
老いた彼にはハマーンとの共同作戦は無理だったのでしょう。そこで潔く身を退き、マシュマーに全てを任せる。彼に言わせればマシュマーは「とんでもないミス」をしたのですが、連邦と戦える指揮官も彼しかいないと覚悟したのでしょう。
「貴官にこの艦と、派遣艦隊全軍を委ねる(2-28)。」
キャラクター欄の好々爺の画像から、もっと認知症っぽい司令官を連想していたのですが(相手が「あれ(クルト)」ですし)、潔い台詞です。立派な司令官だと思います。