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An another tale of Z reviews

アニメ 「スーパーカブ」(4)


第10話「雪」

あらすじ
 北杜に雪が降り、礼子は小熊を雪原での雪遊びに誘う。防寒対策に小熊はスキーウェアとヘルメットシールドを買い、冬の防寒対策を万全に整える。そんな日々のある夜、ねこみちで椎が遭難し、小熊に助けを求める。

Aパート:初めての雪、冬のキャンプ場
Bパート:ねこみち、椎の遭難

コメント
 小熊や礼子が遊んだ雪原は夏季にはオートキャンプ場として使われている場所で、礼子の家は真原桜並木の入口近くの別荘地にある。高校からの距離は約3キロ。椎の家は小熊がカブを購入したバイク店のモデル(デザイナー工房)の途中、高校から緩い登り坂を約1キロ上った場所にあり、小熊の家は七里岩の台地の上、日野春駅近くの県営住宅がモデルである。高校からの距離は3人の中でもっとも遠く、約3.5キロある。
 三人の中でも礼子の家は手がかりとなる描写が少なかったことから、牧原交差点を起点に小熊の家と反対方向らしいこと、椎の家が途中にあり、いつも昼食に食べているサンドイッチをブールで買っていることしか分からなかったが、本話でようやく自宅の位置が分かった。
 防寒対策の仕上げに小熊が選んだのはヘルメットシールドとスキーウェア、前者はともかく後者は少々大げさと思えるもので、礼子は軍用ツナギ(オーバーオール)とゴツいワークブーツ。フライトスーツはアラミド繊維の高機能素材で作られているが、これは航空機搭乗時の破片による裂傷や火災に備えるもので、与圧暖房された機内で用いることを前提としているため保温性は厚手のコートやオーバーオールに劣る。色褪せしやすく紫外線にも弱い。どうしてこの人たちは、いつも非実用的な選択ばかりするのだろう?

★ 寒冷地は冬も取材しないと片手落ち、あんな雪あるか。


用語集

七里岩
 山梨県の岐北地方にある、八ヶ岳から韮崎まで続く溶岩台地。左右を釜無川と塩川に侵食され、切っ先のようになった先端の形状がニラ(韮)の葉先に似ていることから、この場所を韮崎(にらさき)と言い、北杜市を含む峡北の中心地である。岩塊の比高は釜無川側では100メートル以上あり、韮崎から富士見町(長野県)に至るまで、これを登るためのつづら折りが道路や中世以来の古道として各所に開削されている。台地上には七里岩ラインがあり、韮崎から長坂まで南北に通じている。
 台地北部は八ヶ岳南麓高原湧水群という全国有数の湧水地帯で農業が盛んである。水質が良いことから近年はパン屋、そば屋を開店する例も多い。カフェ・ブールのモデルになったバックハウス・インノはこの湧水群の一角、大泉町にあるベッカライである。
 特徴的な地形はアニメにも生かされており、イベントの多くが台地とその周辺の地形の影響を受け、町田や春日部など東京周辺ではありえない光景や展開を可能にしている。そのため11話のように作者の都合で地形を変えると、話そのものにどうしようもない矛盾や欠落が生じることになり、それを正すことはほとんど不可能である。

パウダースノー
 礼子が案内した甲斐駒ヶ岳の見える雪原はスキー場と見紛うほどの広さで、パウダースノーで転んでも人もバイクも傷一つ付かないというものであったが、多少とも地元を知っている者から見ると、描写に首を傾げるものがある。というのは、北杜を含む八ヶ岳山麓は体感温度は寒いものの、冬季の実気温はそれほど低くなく、地元では富士見や小淵沢のスキー場はアイスバーンと湿気を含んだ重い雪で知られており、中級者以上のベテラン、あるいは白馬や志賀高原に行く予算のない者が行くB級スキー場という印象だからである。
 筆者のイメージとしても、ここのスキー場には映画「私をスキーに連れてって」のような華やかなムードは微塵もなく、低予算の運動部のスキー特訓場のような汗臭いイメージで、難易度の高いコースで怪我をしたくないので初心者は近づかないという印象である。だから映像を見るとかなりの違和感がある。
 パウダースノーの条件は気温マイナス10度以下の低温、低湿度の乾燥した気候で甲信では志賀高原や斑尾など2千メートル近い高地に限られる。冬とはいえ、たかだか高度700メートルの養鶏場で降ることはありえず、降ったとしてもザクザクとした湿り気の多い重い雪のはずである。作者は冬の北海道に行ったことがないのではなかろうか。



第11話「遠い春」

あらすじ
 椎のSOSを受けた小熊はカブで現場に駆けつける。モールトンが全壊して消沈している彼女に、小熊はある提案を持ちかける。

Aパート:椎の救助、小熊のアパート
Bパート:北杜の冬、春を探して

コメント
 5話と並びネットで炎上した11話だが、これは小熊と椎の位置関係により評価が分かれる回である。「ねこみち」は日野春駅から釜無川に下るカーブの途中で、場所は小熊がいた駐輪場から500mの距離にある。乗り入れて20秒で到着したことから椎のいた場所は県道から100m、小熊の家から600mである。この距離なら救急車を待たずに救助に行く選択は正しいだろう。
 このあたりの地理はアニメも原作の小説も混乱しており、原作は日野春駅の前を通り七里岩ラインにつながる架空の道に向かうが、このあたりの地形は険峻で、作者の都合で簡単に地形変更できるほど生易しいものではない。遭難時の位置が描写の妥当性を判断する決定的なファクターだが、コミックは正解、アニメは方向オンチで小説は失格としか判断できない。
 深くもない水たまりで、骨折したわけでも足を取られたわけでもないのに、椎が小熊が救助に来るまで10分も水に浸かりっぱなしというのも変だが、小脇に抱えられないからと動けない椎を担ぎもせずに自力で崖を登らせ、カブの前カゴに押し込む小熊も相当である。結局、礼子は呼んだが、警察や救急車は最後まで呼ばれなかった。これらは人間の本能にも反しているし、常識にも反している。しかも全て作者の原作に書かれているのだからタチが悪い。
 しかし、もっと非常識なのは、7話から小熊らがあれほど寒い寒いと防寒装備を整えてきたのに、真冬でも女生徒をスカートで通学させる武川高校であろうか。
 寒冷地である甲信越の高校には、冬服は正規のスカートのほか、「女子スラックス」というモンペが準制服としてある。見てくれはカブのウィンドシールドのように田舎臭いが、真冬の防寒については数十年も前から考えられているのである。

★ 相手が「ゆるキャン△」ならこれでコールド負け。



用語集

ビミサン
 11話では小熊が自宅に来た椎と礼子にカレーうどんを振る舞っているが、これまで映された彼女の食生活はレトルトと冷凍食品が中心で、調理して計画的に消費している様子もなく、料理自体無関心な様子である。カレーうどんはレトルトカレーを湯で割っただけでは薄味で、だしつゆが必要になる。
 ビミサンは甲信地方ではデファクト・スタンダードの万能調味料で、製造はテンヨ武田。この種の地域限定の調味料にはヒガシマルの「うどんスープ」、名古屋の「この味」、ワダカンの「八方だし」などがあり、それぞれの地域で圧倒的な支持がある。
 テンヨ武田の製品はこの地方の硬水に適した処方になっており、仕送りで他地域に送ると水質が合わないので使い道に困るが、こと甲信地方では大手メーカーの製品よりも幅広く使え、価格も安いことから、小熊がカレーうどんの味付けに使ったのはこれと思われる。

「惚れた女を抱えて1キロ全力疾走」
 トネの原作にある、椎の救出時に小熊の脳裏に浮かんだ言葉。小熊はもちろん男性ではなく、あちら系の趣味も持たないが、友人が濡れネズミで凍え死にそうだというのに、浮かぶのがハードボイルド小説というのも悠長というか場違いである。が、この構図を実現するために作者が知恵を絞ったのがスーパーカブであり、非難轟々の前カゴ走りなのである。単に椎を載せて走るだけならリアボックスを取り外さなくても膝の上に載せて発進すればそれで良かった。
 さながら大藪春彦の小説のごとく、テンガロンハットに口にタバコを咥えたグラサンのハードボイルド男(カブ)が鍛えた腕(新聞カゴ)で金髪美女(椎ちゃん)をお姫様抱っこする図を作りたかったというのがたぶん作者の本性だが、こうなると作者にとって椎ちゃんとはどういう存在なのか気になる所である。
 なお、カブの中型新聞カゴの奥行きは215ミリ、底部は172ミリなので普通の女子高生はまず入らない。筆者も女子高生より背が低いカオルさんに同大のダンボールを作って実験してもらったが腰すら入らなかった。それにキャリアの耐荷重が5kgなので、載せた途端にこれは曲がるか折れ、バイクから転落することは間違いない。



第12話「スーパーカブ」

あらすじ
 ラジオで鹿児島で桜が咲いたことを聞いた小熊たち三人は春を求めてスーパーカブで西に向かう。木曽路から近畿地方、中国を抜け、三人は九州の最南端、佐多岬に辿り着く。

Aパート:出発の朝、コミスブロート
Bパート:中国から九州通過、掴まえた春

コメント
 おそらく現地取材に最も金が掛かっているであろうラストの九州ツーリング、日照角度まで考慮しての撮影と取材の入念さには頭が下がるが、これで喝采を送りたいのは監督とアニメのスタッフまでで、これは原作がポンコツだから気の毒なのである。
 まず、全般として小熊たちの進行速度が6話の鎌倉行きと比べても速すぎる。現実には不可能なペースと時間なので、北杜市内でも十分怪しいものがあったが、この描写をまとめる人間が誰もいなかったのではと思わせる。後席に座る椎ちゃんをシートに縛り付け、下関付近では時速100キロ以上の猛スピードで彼らは九州に突入する。
 もう一つは目的地を消化することに汲々としすぎ、聖地巡礼するカブマニアへの配慮が皆無なことである。カフェカブでツーリングする人間のいちばんの楽しみは一にグルメ、二に温泉、三に売春と酒であるが、目的地は半径60キロ以内には人家もない佐多岬で、他の場所も似たようなもので、これは食指をそそらないこと甚だしい。食事も飯盒飯とレトルト食品で、ごちそうといえば赤ズワイガニ(千円)だけ、宿泊はネットカフェに簡泊、温泉などにはカスリもしない。
 ウェブでも聖地巡礼として北杜周辺はそれなりに上がっているが、放送後数ヶ月経っても12話関連のものはなく、これは現実的に困難なことに加え、計画それ自体に魅力がないためであろう。筆者も佐多岬くらいなら行っても良いが、もう少し美味いものを食いたいし、別所や九重の温泉は外したくない。
 「目的地を定めないツーリング」は日本一周などで雑誌やウェブで紹介されることはあるが、それらの場合は天候不順やハプニングに備えて電車やバスなど別の手段を用意している。雨天ではバイクを置き、バスで目的地に向かうような。彼らにその用意のないことは明白で、原作の記述も本当に長距離ツーリングをしたことがあるのかという散漫なものなので、これは富士山と同じくいっそ原作を無視し、房総半島など別の場所に書き直した方が良かったのではないだろうか。

★★★★ 計画はずさんだが楽しいエピソード。


用語集

コミスブロート
 直訳すると「軍隊パン」、ドイツ軍の食べ物なので黒パンがイメージされるが、実際には軍糧として食べられるパンの総称で黒パン以外のプレッツェルやブール、菓子パンなども含まれる。代表的なものはプンパニッケルといい、これは保存性を高めるために長時間焼成した水分20%の堅焼きパンで一斤1kgの大型のパンである。市販されているものは半斤で500gあり、ドイツの食い物なので大きさや重さがキッチリ決められている。このパンを焼く国家資格の職人をベッカマイステルという。いわゆるマイスター。
 8話で椎の父親が焼いたラントブロートは直訳すると「田舎パン」だが、最近はドイツでも小麦粉を混ぜたもの(ミッシュブロート)が好まれており、100%ライ麦(ローゲン)で全粒粉(フォルコロン)のパンは少数派になっている。カフェ・ブールの黒パンも食べやすさからドイツでも一般的なライ麦3割、小麦粉(ヴァイツェン)7割のヴァイツェンミッシュブロートと思われる。

紅ズワイガニ
 かに料理の本場は北陸だが、紅ズワイガニは山陰で水揚げされるカニで、本ズワイガニより小型で身が柔らかく、甘みもより強いとされる。大部分は加工用として缶詰などの原料にされるが、水揚港の近くでは漁獲直後の新鮮なカニを千円ほどで入手することができる。水気が多いため刺身には向かないが、新鮮なうちに茹でたカニは美味とされる。冷凍で身痩せしやすく風味も落ちやすいため、紅ズワイガニの茹でガニは産地限定のB級グルメである。

大津湖岸のカブの集会
 別名を「カフェカブスタジアムin関西」といい、隔年で行われるホンダ後援の地方カブオーナーのミーティング。オーナーは自らを「カブ主」と自称し、機能的なカブの車体にこれでもかと趣味の悪いカスタムを施し、高価なパーツや装飾を施したカブを競わせて「最強の俺カブ」を決めるただの見栄自慢である。その行状は善良な市民というよりは愚連隊の集団といって差し支えなく、集団で道路を目一杯塞いで走行して道を渋滞させる。公園の芝生で焚き火をする。集団で遊歩道に駐輪して写真を撮る。自動車運転者の集団のはずが酒が入ると通行人に絡む。主催者が弁当持参を呼びかけているので周辺の飲食店に金を落とさない。イベント後の会場は古い車のオイルで汚れるなど札付きで、周辺住民にも煙たがられているものである。かつては京都の梅小路公園に出没していたが、現在は大津でも左翼活動家の集会や吹奏楽部の練習くらいにしか使い道のない、大津市のなぎさ公園市民プラザを定宿としている。

コースの選定
 そもそもアニメのようなペースでこのコースを往くこと自体が現実的でないが、3月初旬に木曽路や山陰というコースを選ぶことには凍結や降雪の問題がある。諏訪地方と木曽路は北杜よりも寒く、道路も日陰は凍結しているし、山陰地方を含む日本海側は有数の豪雪地帯である。除雪されているにしても一部には残雪があり、また、通過中に降られたらオートバイはお手上げで、そのまま宿所に数日逗留ということもありうる。
 アニメのように往きやすい道路を故意に避け、ワインディングロードや脇道を通る場合にはさらに条件が悪くなり、温暖な滋賀でも鈴鹿峠や八風街道には降雪リスクがある。これらの地域は長野や山陰ほど除雪や融雪剤に予算が取られておらず、冬季の関ヶ原を通過する時は長野以上に気を遣うというのが実感である。
 監督は日照や方向まで考慮してコースの取材をし、現実感のある絵を作ることに心を砕いたが、肝心のタイムチャートがいいかげんなので、表現が精緻であればあるほど現実的にあり得ることとの落差が大きく、スタッフには本当に気の毒な思いがする。

「僕の背中に身を委ねる君」
 12話のツーリングでは佐多岬まで寒空の下、一日何時間もハンターカブの後席に縛り付けられていた椎ちゃんについては、パッセンジャーの疲労消耗を考慮しない小熊と礼子の虐待ぶりに背筋が寒くなるが、そのオリジンが作者の嗜好が滲み出たこのフレーズ。あの嗜虐的取り扱いの本当の動機が劣情で、バイク男の背中にしだれかかった、目も虚ろに消耗したか弱い少女のあられもない姿見たさだったと分かるコメント。男の風上にも置けない所行だが、アニメで椎ちゃんがしがみついていたのは礼子で、男ではなかったことも書いた人間の卑怯(ひきょう)さを倍増させている。いずれにしろ、参加者の体調につき配慮することはライダーの義務である。ツィートは全文引用しようかと思ったが、背中からゲジゲジが這うようなエロ気色悪いポエムなので、惻隠の情で載せないことにした。

リトルカブ
 旅を終えた椎は小熊らに触発され、原付免許を取得してリトルカブを購入するが、このリトルカブという車、実はかなりゴージャスである。CA型の車体に郵政カブの14インチホイールと共に移植されたのはカブ最強と名高いC50カスタムのコンポーネンツで、カスタムの特徴である4速ミッションは同時期にはこの車しか装備していなかったものである。セルモーターも搭載し、キックによらない始動も可能である。スペックは後のJA型カブと同等だが、軽量と乗りやすさでは勝っている。速度性能も時速60キロは容易に達成でき、CA型カブの生産終了時には唯一の4速車だった。
 現在から見ればかなり魅力的なスペックのリトルカブだが、販売当時は必ずしも人気車というわけではなかった。当時はDJ-1やチャンプ、セピアなど2ストスクーターの全盛期で、ロードスポーツもRG50Γなど7馬力級のモデルがあったことから若者の目はそちらに向けられ、重くて鈍重なカブには誰も見向きもしなかったというのが本当である。
 リトルカブはそんな時代に中高年や女性など実直なユーザーを開拓するために投入されたが、女性にはロードパルより割高に見え、中高年はトヨタ・クレスタに夢中の時代にあってはこれも成功したとは言いがたい。
 当時の2スト車のほとんどが寿命で姿を消した現在、カブ譲りの堅牢な構造で当時物が生き残っているリトルカブには懐かしさを覚えると同時に、その真価を見抜けなかったことには一抹の後悔もあるというのが、当時を知る人の率直な思いではないだろうか。

その後のツーリング
 原作のその後は佐多岬から宮崎シーガイアに行き、阿蘇山火口や唐津で遊んだ後、山陽道で西日本を横断して伊勢志摩で海水浴をし、礼子の提案で富士山周遊して帰ったことになっている。この内容で距離的にも時間的にも行路より短いことはありえないが、帰路は行路よりもさらにハイペースで走行したと見られる。
 日程では実際に催行した場合の推定時間は記さなかったが、筆者の試算では行路だけでも6泊7日、帰路も含めると総走行距離4,050キロ、16泊17日という大旅行になる。こうなると体力はもちろんのこと、時間的、予算的に可能かという問題になる。聖地巡礼をする「カブ主」にはぜひトライしてもらいたいが、できないだろうし、筆者も御免こうむる。