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An another tale of Z reviews

アニメ 「スーパーカブ」(2)


第4話「アルバイト」

あらすじ
 夏休みになり、高校の書類運搬業務のアルバイトに応募した小熊は休みの間、母校と甲府一高を往復する書類運びに明け暮れる。初めてのオイル交換や雨も経験し、小熊はカブの扱いに徐々に慣れていく。

Aパート:初めてのオイル交換、バイト初日
Bパート:二回目のオイル交換、雨降り

コメント
 やや詰めの甘いエピソード。小熊の初バイトだが、前日にした最初のオイル交換の走行距離は約100キロ、設定による小熊の通学距離は往復8キロなので、学校はたかだか10日程度の経験しかない生徒をバイトに起用したのか。ここからして話に信用ならないものを感じる。
 武川高と甲府第一との距離は25キロ、2往復では100キロにもなり、初心者同然の小熊には過酷すぎる勤務である。雇われたのは彼女一人で代わりのライダーもいない。事故を起こしたら教務主任のクビが飛ぶくらいでは済まないだろう。それにバイト中に交通違反で捕まったこともあったようだ。どうも設定があざとすぎる。
 14日目に積算計は1,300キロになり、2回目のオイル交換もしたことから、1日当たりの走行距離は平均50キロ。これは配達のない日もあったように見える。その時は給料半分で庭の掃除などしていたのかもしれない。最終日の積算距離は2,328キロになったがペースは同じで、すでに8月の終わりになっており、小熊のバイトは体の良いバイク練習でしかなかったようだ。往復で稼いだ金額は2ヶ月34往復で6万8千円、草むしりの金額は含まない。
 気になったのは夏本番になるにつれ、小熊の相手の甲府第一高の女教師は徐々に肌が日焼けして茶褐色になるが、彼女よりはるかに直射日光を浴びる機会が多く、すっぴんで化粧一つしていない小熊の青白い肌色がほとんど変わらず、ゴーグルによる日焼け跡も残らないことである。これは体質なのか、1話から続く不健康な食生活の影響なのかは分からないが、わざわざ描き分けをしているところを見ると、どうも後者の可能性が高い。
 なお、乗車中に制服着用を求められる場面では、山梨の高校である武川高校には女子用の制服スラックスがあるはずで、スカートでの乗車を避けたい小熊がジャージを着る必要はなかった。

★★ バイト代の予算が県教委にあるのか、それに甲府の夏はもっと暑い。


用語集

小熊の食生活
 この作品の冒頭から描かれ戦慄を禁じえないのは、主人公小熊があまりに適当で貧弱な食生活を送っていることである。画面に出た朝のトーストと昼のレトルトご飯、夕食の冷凍ピラフの総カロリーは1,286kcal。飢餓線以下の数値であり、栄養価もまともに取れているものは塩分と脂質以外一つもないという悲惨さである。特にビタミンA、カルシウムの不足は極端で、必要量の10%足らずしか摂取できていない。
 こういったことをあえて作品に書き、映像に載せる作者や制作者には人間性を疑いたくなるというのが本当で、成長期の彼女にこれでは成長や生理は止まり、骨や歯の形成にも障害になる。筋肉は落ち、肌はガサガサ、虫歯に罹りやすく、アレルギーのほか、夜盲症や脚気、貧血といった体調不良にも苦しめられる。怒りっぽく集中力を欠くので周囲との協調を欠き、成績も良くないはず。成人しても動脈硬化や高血圧、骨粗鬆症に眼病といった持病を持ち、流産リスクも高い。これらはアニメだからと笑える限度を越えている。
 小熊はテストではそこそこの点数を取り、中の上程度の学生としてカブに乗り、高校生活をつつがなく送っているように見えるが、それはマンガの話であって、現実に彼女のような食生活を送ったなら、カブに乗ることはおろか、まともな学生生活は全く不可能である。

エンジンオイル
 内燃機関のシリンダとピストンは激しく摺動するため、擦れ合う金属を潤滑するオイルが不可欠であるが、オートバイの場合はトランスミッションの潤滑も行っており、自動車用のオイルをそのまま使うことには問題がある。スーパーカブは他社の同種のバイクに比べ鋳鉄エンジンの熱容量が大きく出力も低いため、純正はバイク用としては低粘度の10W−30のオイル(スズキは10W−40)を使用している。カブのようにオイルフィルターを持たない車種の場合は長くても1,500キロ、できれば1,000キロでの交換が望ましい。
 エンジンとミッションという性質の異なる2つの機構を同じオイルで潤滑しているため、JASO(日本自動車規格)はオートバイ用にMA(MA1、MA2)、MBの2つの規格を定めており、MAはミッション車、MBはスクーター用である。
 バイク店シノの店主が勧めたホンダG1は10W−30(現在は5W−30)、JASO・MAのオートバイ専用オイル(実売価格1,100円/本)で、1回の交換に要する量は0.6リットル、ガスケット交換と廃油処理を含めた費用全体は1,500円である。



第5話「礼子の夏」

あらすじ
 小熊を自宅のログハウスに誘った礼子、夏休みに山小屋をバイト先に選んだ彼女は走路確認の寄り道を口実に富士登山に挑んでいた。何度も転倒して挫けそうになった彼女は登坂中のMD90でかつて小熊と交わした言葉を思い浮かべる。

Aパート:礼子のバイト、富士登山の動機
Bパート:登頂断念、呪いのカブの秘密

コメント
 世界遺産の富士山に登るという暴挙の上、無謀なライディングで計7回も転び、8回目でカブを壊して登頂断念した礼子だが、これまでの作風との違いからネットで大炎上した回でもある。そもそも走路確認とはシーズン中に朝4時に日が昇る富士山の御来光を眺めに登山客が大挙来訪することから、それまでに山小屋に物資を運び込むキャタピラ輸送車の経路の安全を確認する作業である。
 輸送車の走行する道をブル道といい、礼子が登攀した須走ルートも山頂まで伸び、一部は下山道として使われている。登山シーズンでこのルートでも一日千人以上の登山客が大挙して押しかけることを見れば、人の少ない時間帯とはいえ、彼女の挑戦が登山客を巻き込む、無謀で危険なものであることが分かるだろう。
 富士山に登頂するルートはこの須走のほか、吉田、富士宮があり、御殿場ルートが最も長く、最も登山客が少ない。ブル道は山小屋に物資を運ぶ用途上、全てのルートに整備されており、富士山頂郵便局の職員も輸送車で通勤している。ハイシーズンには4つのルートから一日一万人が山頂を目指す。
 この話も、実はある自動車評論家が学生時代の体験として雑誌に話した内容が元になっている。原作を読むと登頂までの時間や下山時間も同じ、登坂可能な車種も同じ内容が書かれているので、信憑性のない与太話をロクに調べもせずに信じ込み、そのまま作品にしたという軽率さである。こういうツメの甘さは以前のレビューでも指摘したように、この作品に最初からあったものである。

★★★ テーマは問題あるが、ブル道を紹介したことは評価。


用語集

小熊焼きとビジネスボックス
 5話で礼子のログハウスを訪ねた小熊はお好み焼きを作っているが、ビジネスボックスからネギを取り出す場面はネギの全長がボックスの高さを越えることから、まるでMr.マリックの超魔術のように見える。そもそもお好み焼きの材料はキャベツでネギを使ったものはお好み焼きとは呼ばない。大阪人や広島人が見たらひっくり返るような映像である。
 オートバイの積載は所有する者に取って常に頭の痛い問題であるが、ネギはその代表で、40リットル以上の大型のボックスでない限り、長さ60センチのネギは入らない。端を折るか、筆者がしていたようにスーパーのサービスカウンターに頼んで2つに切ってもらうしかない。スーパーの側も良くしたもので専用のカッターがある。後に大型のボックスを入手するまで、筆者はこの方法でネギを運んでいた。
 お好み焼きは関東ではもんじゃ焼きと混同され、お好み焼きともんじゃ焼きの区別ができない人も中にはいる。お好み焼きを含む粉物料理は関西では廉価でポピュラーな庶民の味方で、礼子が小躍りするような料理ではないが、関東では値段がだいぶ高く、ケーキなどと同じ買って帰る嗜好品になっている。

バイクの富士登山
 スーパーカブによる登頂は1963年の鍋田進氏のC100型によるものが最初とされるが、バイクによる富士登山自体はそれ以前も行われていたとされる。当時はブルドーザー道が整備されておらず、通常の登山道を用いての登山である。ブルドーザー道の整備は1964年の富士山レーダーの建設による。鍋田氏の2週間後に上野動物園園長の林寿郎氏がハンターカブとモンキーで登頂し、バイクによる富士登山が注目されるに至った。ハンターカブは輸出専用車で、バックアップにはホンダ本社のサポートがあった。
 バイクによる富士登山がブームとなったのは、レーダーが供用開始された1965年から、多発する山岳事故により規制が強化された1974年までのおよそ9年間だが、その後も登山客は年を追うごとに増え、現在ではバイクによる富士登山は法律的にも道義的にも許容されないものになっている。自然公園法の規定により、違反者には自然公園法第83条第3号で6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が課せられる。
 ただし例外はあり、通常の管理行為(ブル道の維持など)として行う場合は許可は不要(法第21条第8項第4号、規則第13条各号)だが、礼子がしたような方法はもちろん、それが取材を目的とするものであっても、バイクで入山を認められる可能性はほとんどないだろう(規則第11条第37項第3号)。
 なお、礼子が罹患した高山病とは、急激に高所に上がった時に身体が適応できないことによる体調不良である。過去のバイク登山のベテランは同時に山岳登山のベテランでもあり、登頂は山小屋での宿泊を含む日程で行われ、高度順化は十分に考慮されていた。0泊2日の弾丸登山は高山病患者が続出したことから、通常の富士登山でも当局含む関係者が止めるよう(STOP!弾丸登山)呼び掛けているものである。

2つの「スーパーカブ」
 礼子がパソコンを検索した時に見た「ハンターカブ(CT110)」は一見カブの派生型に見えるが、実は少し違う車である。スーパーカブは初代のC型と、その後継車で40年以上作られたCA型、そして現行のJA型の3つに大別されるが、JA型がCA型を手本にした発展型であることに対し、ハンターカブは初代のC型から派生した車である。
 スーパーカブのC型は軽量(55kg)でスポーティーだったが、消費者がこの車に求めたのは耐久性や経済性だった。後継車のCA型はその方向でモデルチェンジされ、現在のカブのイメージはこの車のものだが、馬力そのままに約20キロ重くなった車体は頑丈ではあったが速度や運動性は犠牲になった。現在でもカブに「速い車」というイメージはない。
 ハンターカブはこれより以前、C型がアメリカに輸出されていた時代に現地で派生した車である。その後のアップデートで重くなったが、CA型のような実用を考慮したことは生産終了までなく、改良で用いたのはC型を強化したCM型のフレームである。このカブこそが軽量スポーティーなC型の直系で、クロスカブの登場まで国は違えど異なるオリジンのカブが併売されていたことになるが、圧倒的に売れたのはCA型だった。
 現在はJA型を元にしたクロスカブ(JA45)がCT110の正式な後継車となっている。現行の「ハンターカブ(CT125)」はC型の2倍(120kg・装備重量)の重量のレジャーバイクで、初代カブの系譜はハンターカブを最後に絶えたことになる。



第6話「私のカブ」

あらすじ
 夏休み中に自動二輪の免許を取得した小熊は小型二輪となったカブで解放された自由を味わう。発熱で修学旅行に参加するチャンスを逃した彼女はカブで旅行に中途参加することを目論む。

Aパート:小熊の発熱、鎌倉に出発
Bパート:富士山5合目、湘南弾丸道路

コメント
 前話の礼子と同じくらい小熊の問題行動が目立つ回である。まず、一度不参加を伝えた修学旅行に途中参加することにつき、担任に連絡一つ入れていない。到着後も乗車が禁じられているにも関わらず礼子と湘南で二人乗り走行などやりたい放題である。
 また、宿泊先のかまくら荘(KKR鎌倉わかみや)も不意打ちで、仕入先も閉まっているのに食事をもう一人前用意する余計な手間を強いられることになった。優秀な料理人のいる旅館だから良かったが、通常の共済施設では食事も用意できなかっただろう。この様子では帰路もバイクで帰ったに違いない。実際にやったなら停学モノの不祥事である。
 もう一つの問題は、北杜から鎌倉まで、途中富士山五合目を登っての計180キロの行程で、小熊のペースが実際のこの車種の性能に比べ速すぎることである。作者は単純に距離を最大巡航速度で割っただけの計算しかしていないのではないか。御殿場まで1時間半で到達しているが、その平均は時速60キロで、ありえない速度である。
 ほか、小熊は夏休み中に普通二輪免許を取ったが、ほぼ全日甲府往復のバイトをしていて免許を取得する時間と費用をどこから捻り出したのかという疑問もある。前話との整合性が取れておらず、これは原作の特徴でもあるが、この辻褄の合わなさが回が進むにつれて作品を見にくいものにしている。
 監修したホンダも50ccカブの苦しげな音は再現したくなかったのか、富士山に登るカブは軽々と5合目の急坂を駆け上がっていく。この登攀にはコツが要るはずだが、それについては触れられていない。
 この頃になると小熊も知識を付けていて、礼子との会話でCTがハンターカブと分かるほどになっている。新型車(クロスカブ)が出ていることも知っているが、このあたりはバイク乗りあるあるである。

★ 停学確実の無謀行動、作者の軽薄さに呆れ果てる。


用語集

ブロック修正
 またの名をボーリングといい、精度が低く材質の良くないカブ時代のエンジンでは自動車でもおよそ10万キロごとにエンジンを下ろしてシリンダをボーリング機械で削り直し、オーバーサイズのピストンを押し込んで再生する作業が行われた。ピストンはメーカーで用意されている。精度の向上した現代のエンジンでは不要の作業になっているが一定の需要はあり、整備工場から専門業者に外注する方法で今も行うことができる。費用は一万円弱から数十万円までエンジンの大きさや加工形状により異なるが、原付クラスの修正はエンジンもシリンダも小さく、単気筒で構造が簡単であることから費用も低廉である。加工したエンジンは排気量が向上することから市役所に申請して登録内容を変更する必要がある。内容的には改造ではなく整備の一種であることから、49ccのカブを52ccに排気量アップしたところで性能はほとんど変わらないと思われる。

バイクの巡航速度
 北杜から御殿場までの90キロを小熊はわずか1時間半で走破しているが、実際のツーリング計画ではストップ&ゴーの繰り返し、制限速度や道交法上の最高速度60キロ、燃料補給や休養の時間を考慮して計画を立てなくてはいけない。例えば500mを時速60キロで走行する場合、通過だけなら30秒で通過できるが、同じ時間でゼロ発進から次の信号で停車する場合は時速100キロ近くまで加速しなければならない。当然これは最高速度違反であり、実際は信号待ちの時間がなくても通過に時間が掛かる。
 小熊のカブの場合は時速60キロまで加速するのに15秒掛かるので、500mは40秒台半ば。これだけであっという間に平均速度40km/h台である。そして、このような場所はツーリングではザラにある。加速の途中でトラックが道を塞ぐこともある。
 動画ではより性能の高いカブC125(小熊カブの2倍の性能を持つ高性能車)で同じコースを走ったライダーが朝7時に出発し、富士5合目を除く160kmを御殿場まで3時間40分、鎌倉まで6時間40分で走破したが、現実的には時速30km/hが飲まず食わずで行った場合のスピードの平均で、寄り道で時間を取られれば時速20キロ台もありうるものになっている。小熊の場合はより遅い昼前(11時頃)の出発なので、この時間帯では甲府バイパスや湘南の大渋滞に巻き込まれ、富士山など登ればさらに遅くなり、小田原付近で時間切れになり、夜到着もありうるものになっている。