第17話 土星沖海戦・波動砲艦隊集結せよ!
あらすじ
ガトランティスの侵攻が始まり、波動砲艦隊が出撃する。ギムレーが逮捕され、デスラーはミルからヤマト撃破の指令を受ける。
Aパート: 芦沢の演説、ギムレー逮捕
Bパート: 敵艦隊出現、波動砲祭り
コメント
この作品を制作している小林誠は昔のモデルグラフィックスでは「ドイツ軍フェチ」のモデラーとして鳴らした男で、脚本の福井の出世作は「亡国のイージス」とミリヲタ系なのだが、どうも軍事知識が30年前の水準で止まっているらしく、ガトランティスに襲われた守備隊の発する通信は懐かしいSSB(シングル・サイド・バンド、かつて航空無線に多用され、モガモガした音声が特徴)で、戦列は日露戦争、守備隊はかつての鎮守府みたいに艦隊を連ねて迎撃する。言ってみれば海上保安庁にロシア軍の迎撃をさせるようなものである。そして合図は手旗信号。場所が土星なのはたまたま前作ヤマト2が主戦場を土星にしていたからである。が、司令部の芦沢は「これこそが波動砲艦隊」と胸を張っているのだからたまらない。なお、山南率いる艦隊主力は地球にある。
戦いは物量とマジックハンド宇宙艇(イーター)くらいしかないバルゼーに対し、地球軍の山南は数千隻の波動砲艦隊を動員して雨霰と波動砲を撃ち込む。次々と現れる波動砲戦艦に巨大空母のバルゼーは驚愕するが、この作品で初めて地球軍が悪そうに見える場面である。しかし、こんな使い方なら戦艦など作らずに、惑星や衛星に「波動砲砲台」でも作った方が効率が良くないか? なお、アポロノームの艦上に大量に載っているコスモタイガーはワープの途中で落としたのかほとんど出てこない。波動砲戦で打ち負けたバルゼーは例の自爆兵器「インフェルノ・カノーネ」で反撃するが、数で負けている上に威力も下回るのだからどうも勝ち目はなさそうである。
ゲームでも映像でもパッとした兵器のない彗星帝国で唯一地球軍に通用したのは小林誠デザインのイーターという高枝切バサミに似たヘンテコな自爆艇、波動防壁を突き破って船体に突き刺さるキワモノだが、なにぶん数が少なく、苦戦を見たズォーダーはヤマトの桂木透子にテレパスを送って加藤を裏切らせる。そんな小細工をしなくても地球軍など次の彗星要塞でやっつけられるのだから、つまらん話である。
カオルのひとこと
テレザード星を出て地球への帰路についたヤマト、裏切りが発覚したキーマンは独房入りとなっているが、彼が波動エンジンにふりかけた菌に真田は苦労しているようである。一方トランジット波動砲なる最終兵器の開発も進められ、最終決着に向けて絶対に負けない設定の準備に余念のない様子が伺える。一方地球では向かってくる白色彗星を迎え撃つべく促成栽培モヤシ艦隊が発進。ガトランティスのバルゼー艦隊をやっつけるが、地球からの通信で息子の余命が幾ばくもないことを知った加藤に、桂木の魔の手が伸びるのだった。
湿っぽい加藤親子の話と、艦首を並べて波動砲を撃つだけの戦闘シーン、どことなくヤマト内部に不穏な空気があるものの、とにかくまったくワクワクしない展開で、見せ場のはずなのに見るべきもののない空虚。
評点
★★ ボードゲーム「宇宙戦艦ヤマト」の悪夢再び。(小林)
★★ ようやく本筋に戻ってきた感はある。(飛田)
用語解説
土星沖会戦(ヤマト2)
白色彗星の太陽圏進入に呼応して土星に集結した地球軍の主力を撃滅すべく、バルゼー率いる艦隊が土星圏に侵攻して行われた戦い。戦力比は地球側が戦艦40隻(含む空母3)を含む200隻、ガトランティス側が戦艦200隻に特殊戦艦(メダルーザ)1、空母80隻(超大型空母2)で400〜500隻である。艦隊規模が膨大のため、ガトランティスは艦隊を戦艦中心の主力部隊と副将ゲルンの空母・護衛艦部隊に二分していたが、空母群は緒戦のヤマト機動部隊の攻撃で撃破される。艦隊戦は特殊兵器である火炎直撃砲の投入で当初は帝国軍優勢であったが、土星の地形を利用して反撃に転じた地球軍がバルゼーを戦死させて勝利を収める。
索敵から戦略立案、艦隊集結や戦いの経過などプロセスも丁寧に描かれ、宇宙戦艦ヤマト最大の宇宙海戦として名高い。なお、バルゼー艦隊が土星に侵攻したのは、そこに地球軍の主力がいたからである。当初の戦略では太陽系各地に配備された防衛艦隊が個々に帝国軍と交戦する漸減策だったが、土方の独断により変更され、全地球艦隊が土星に集結して決戦を挑むこととなった。戦場も当初のフェーベ周辺からヒベリオン、タイタン、土星本星と移動し、専ら土星周辺で波動砲を撃ち合っている本作よりダイナミズムに富んだ戦いが繰り広げられた。
第18話 ヤマト絶体絶命・悪魔の選択再び
あらすじ
土星では波動砲艦隊の一方的な攻撃が続くが、抗し得ないことを見たズォーダーは白色彗星をワープさせ、異文明の兵器で地球艦隊を壊滅する。超々波動砲であるトランジット波動砲を準備していたヤマトは加藤の裏切りにより彗星要塞に墜落する。
Aパート: バルゼー艦隊壊滅、加藤の人生相談
Bパート: スーパー波動砲艦隊、波動砲艦隊壊滅
コメント
そもそも独房に居た桂木がどうやって薬を作ったのか分からないが、加藤がこうなったのは前話で土方が乗組員に家族との私信を許可したことにある。それで息子翼の病状が伝えられ動揺させられたのみならず、コスモウェーブの中継通信でウルトラ波動砲の発射阻止を目論む桂木にも知られてしまい、今回のヤマト墜落劇に繋がることになる。もっともこの場合、墜落したらヤマトもろとも桂木も加藤も粉砕されてしまうので、「ヤマトは破壊しない」というルールになっているようである。戦闘民族は退屈なのでこの種ゲームはガトランティスではポピュラーなもののようであるが、もしズォーダーが大阪府のカジノに臨席したら、「ルール違反は許さない」と次々と蘇生体を爆発させたに違いない。
それにしてもこの彗星要塞、カッコ悪いことはあるが、大きさも「SF世界一」でも狙っているのかデタラメに大きく、ウルトラ波動砲ならチョチョイのチョイだろうが(でなければヤマトを封じない)、波動砲の集中射撃を食らっても死なず、ガス体まで再構築できるとちょっと対抗し難い代物である。反転間際に小林謹製の破滅ミサイルを喰らったアンドロメダは大破し、これもカッコ悪い空母アポロノームは爆沈するが一匹は山南と一緒に逃亡する。デタラメすぎて対抗する手段も見いだせないヤマト乗員に土方がトランジット波動砲は効くと根拠不明の主張で乗員を説得する。そしてヤマトは彗星に突入する。
どう見ても子供受けのする作品でもあるまいに、第5章ではエンディングなどやけに子供の絵が多用され、今回のように子供のために道を踏み外す親まで描かれる。スタッフに実際に同年代の子供がいるのかもしれないが、電波は公器である。そういう私情のために作品を歪めるような態度を人は「親バカ」と呼ぶ。あと、多分沈んでいないが次回作では発射に失敗して彗星に墜落したヤマトは「沈んだ」ということになっており、新戦艦ギンガが登場する。どうせ子供受けを狙うならクルーはギンガの森の住人とか、艦長席にはしゃべる木とかあった方がそれらしくて良いが、どうもクルーと艦長はヤマト二軍の女子会と藤堂の娘のようである。
カオルのひとこと
促成栽培モヤシ艦隊の数の多さに瞠目するズォーダーだが、見ているこちらもエグザイルのように戦艦の背後からずらりと出てくる戦艦の列に失笑。コピペでいくらでも増やせるとあっては、こんな設定は製作者の怠慢としか言いようがない。バルゼー艦隊をやっつけたアンドロメダモヤシ艦隊は雁首並べて白雲上げる白色彗星に波動砲を打ち込むが、もくもくと変てこな煙が消えて現れたのが土星より大きな虫かごみたいな代物で、そのデザインの悪さにまたもや失笑。唯一気になる加藤の動向だが、案の定桂木の罠に陥り、この薬で子供の命は助かる、という甘言に乗せられ、いつの間にかゲットしたキーマンスイッチを何やらポチっと。そんなことをしたら自分も薬を提供する桂木も生きては帰れないのに、なぜそんなことをするのか理解に苦しむ。とってつけたような疑心暗鬼の葛藤エピソードは思いっきり滑りまくっているのだった。
評点
★★ 面白うてやがて悲しき波動砲。(小林)
★ 次々現れるヘンテコデザインとコピペ艦隊に目が回る。(河野)
用語解説
波動砲艦隊
2202では地球軍の芹沢が土方など周囲の反対を圧して推し進めた全艦波動砲装備の地球の宇宙艦隊。ボードゲーム「宇宙戦艦ヤマト」では、発射まで通常兵器が使えなくなるという欠点があるものの、発射されれば敵艦隊は宙域ごと殲滅され、稀に生き残っても大破戦闘不能というこれが地球防衛軍はほぼ全艦が装備しているため、ゲームで地球軍と対戦したプレーヤーは遮二無二攻撃して波動砲搭載艦を発射前に撃破する苦行を強いられた。2202では充填時間の制約なく発射できるようで、ワープ直後に波動砲を乱射する山南の戦術は艦の大きさや数で地球軍を圧倒していたはずのバルゼーを大いに苦しめた。
しかし、無尽蔵の戦力を持つガトランティス相手には有効だったこの戦法だが、時間断層が発見され、戦艦工場が建造されたのはガトランティスの正体が露見するだいぶ前の話であり、防衛に必要なスケールを遥かに凌駕する大艦隊建造に必要な予算や人員をどう確保したのかは疑問がある。仮に10倍のペースで艦を建造できたとしても、10倍の予算は通常空間で調達されるため、こんな計画を推し進めたら数年で財政が破綻し、また、資材の調達にも困難を来したと思われる。この手の荒唐無稽な計画は現実の軍事でもしばしば論ぜられるものであるが、たいてい予算で破綻する。
テクニカル的に見るとユニットグループ化、一斉移動の作画は実際に乗員がいて個々に奮戦している艦を作画するより画面の迫力の割に低予算で作れると思われ、この辺の事情が2202の戦闘が派手な割につまらない、見ていて退屈するものになっている理由だろう。両軍とも艦と艦との間隔が戦闘に適当な距離に比べ異様なまでに狭いのも、コンピュータによる三次元空間の処理ではその方が高速で処理できるからである。