ガンダム

第43話 「脱出」

脚本/星山博之 演出/関田修 絵コンテ/斧谷稔 作画監督/山崎和男 

あらすじ
 ガンダムが血路を開きモビルスーツ隊が宇宙要塞ア・バオア・クーにとりついた。しかし激戦の中、ホワイトベースはエンジンをやられて着底、白兵戦に突入する。アムロはジオングに直撃を加えるが、シャアは頭部コクピットを分離させて離脱、ガンダムの頭部を破壊する。メインカメラがやられたまま、要塞内部に入り込んでいくアムロには、そのとき本当に倒すべき敵が見えていた。

コメント

 とうとう、ここまで来てしまった。最終回である。ここまで繰り広げられてきた数々のエピソードが、一つに収束していく、すばらしいラストである。しかし、非常にテクニカルな終わり方でもある。ラスボスを倒す、というのがこの手の作品の定番とするならば、ジオンの総帥ギレンこそ、そのラスボスであったはずだ。だが、彼は身内の手により前回、倒されてしまった。
 では一体、最後にアムロは何のために戦い、何を成し遂げるのか。そして、物語はどこへ向かって収束してゆくのか。そんなところを意識しながら、ストーリーを追いかけてみたい。

 永井一郎のナレーションなしに、最終回はジオングに乗ったシャアとガンダムのアムロとの対戦から始まる。ジオングの遠隔攻撃をことごとく避け、アムロはジオングに急速接近してシャアに問いかける。

なぜララァを巻き込んだんだ、ララァは戦いをする人ではなかった!

「誰だ!」はじめてコクピットでアムロを感じるシャア。アムロは叫ぶ。なぜララァを巻き込んだんだ、ララァは戦いをする人ではなかった! セイラもまた、兄の姿を追いかけていた。

 最後の戦いになる、と感じたのだろう。シャアがここではじめて、コクピット内でノーマルスーツを着用するのが感慨深い。ララァなきあと、彼は完全に一対一でアムロと対決しなければならないのである。

岩陰に隠れてガンダムを待ち伏せるシャア。どうする。あのニュータイプに打ち勝つ方法は。ララァ、教えてくれ。どうしたらいいのだ。ホワイトベースは被弾したエンジンを切り離し着底する

ガンダムのパイロットはアムロといったな。どうする。あのニュータイプに打ち勝つ方法は。ララァ、教えてくれ。どうしたらいいのだ。

 そして2機はア・バオア・クーへと接近してゆく。シャアは要塞の影に隠れて待ち伏せるが、アムロは容赦なくジオングを見つけざま、撃ってくる。ガンダムのビームライフルがジオングの胸部を直撃し(アムロはそこにコクピットがあると思った)、ジオングはガンダムの頭部を吹き飛ばす。胴体を失い頭部だけになったジオングと、頭部を失ったガンダムは、決戦の場を求めて要塞の中へと入っていく。

直撃を受けたシャアのジオング。頭部コクピットを射出しシャアは逃れる。ガンダムは頭部に直撃を受けるが‥‥まだだ、たかがメインカメラをやられただけだ

 まだだ、たかがメインカメラをやられただけだ

 ホワイトベースもまた、危機に陥る。ガンキャノン、ガンタンクが先を争うようにア・バオア・クーへ進入してゆくが、ホワイトベースは片方のエンジンに直撃を受けたため切り離し、ア・バオア・クーに着底。ブライトは白兵戦の用意をさせる。

 形勢不利とみたキシリアは、脱出用の船を用意させ、自分が脱出した15分後にここを降伏させるよう部下に命じる。キリシアは、まだグラナダと本国の戦力によって戦争を継続できると計算。そしてここが重要だが「私が生き延びねばジオンは失われる」というセリフから、シャア=ジオン・ダイクンの息子キャスバルと知っていても、ジオンはザビ家のものであって彼にジオンを委ねる気は毛頭ない、と考えていることがわかる。ジオングの頭部を追うアムロの言葉と、それはリンクしているかのようである。

シャアだってわかっているはずだ。本当の倒すべき敵がザビ家だということを。それを、邪魔するなど。

 ここでアムロはガンダムのコクピットから降りてしまう。ガンダムはそのまま歩きつづけ、上部が吹き抜けになった場所で立ち止まると、上に向かってビームライフルを放ち、ジオングの頭部を撃つ。返り討ちに遭ったガンダムは、ついにそこで倒れて力尽きる。

シャアだってわかっているはずだ。本当の倒すべき敵がザビ家だということを。アムロはコクピットから降りるが、ガンダムはそのまま進んでゆき‥‥

 そのガンダム最後の一撃は、のちに「ラストシューティング」として語り継がれてゆくことになるのだが、主人公が乗り込み、大地に立たせて戦ったその最新鋭機が、最後に頭を失い、両腕をもがれた姿で倒れてうずくまる、その姿はあまりにも衝撃的だった。



 アムロは拳銃を手に、さらに要塞の奥へと入っていく。追っているのはシャアではなく、本当の敵、ザビ家の頭領であった。

今の僕になら、本当の敵を倒せるかもしれないはずだ
ザビ家の頭領が、わかるんだ


 しかし、その彼の前にシャアが現れる。アムロとシャアとは、モビルスーツを降り互いに生身で対決することになる。

今の僕になら、本当の敵を倒せるかもしれないはずだ。今、君のようなニュータイプは危険すぎる。私は君を殺す。兄の気配を感じ、導かれるように要塞内へ入っていくセイラ。

その力、ララァが与えてくれたかもしれん。ありがたく思うのだな
貴様がララァを戦いに引き込んだ
それが許せんというのなら、間違いだな、アムロ
な、なに?
戦争がなければ、ララァのニュータイプへの目覚めはなかった。
それは理屈だ
しかし、正しいものの見方だ
それ以上近づくと、撃つぞ
今、君のようなニュータイプは危険すぎる。私は君を殺す


 二人は銃撃戦を展開するが、シャアはアムロを奥の一室へと誘い込み、自分に有利な戦いをしようとする。どこまでも狡猾な男だが、別の見方をすれば、もはやニュータイプとしても、モビルスーツのパイロットとしても勝ち目はないことを悟ったともいえる。

 一方で、ガンダムを初めて大地に立ち上がらせた少年アムロは、まさにガンダムと一体となってここまで戦ってきたわけだが、ついにその殻から脱け出して、一人の人間として敵の前に立つに至ったのである。最初のシャアが彼の目の前に姿を現したのは第2話で、ノーマルスーツ姿で<サイド7>に侵入し情報収集をしていたシャアとセイラが遭遇したあとだった。逃げるシャアにガンダムのビームライフルの照準を合わせようとするが、相手が人間だということに動揺して、結局撃つことができなかった。今、同じノーマルスーツ姿のシャアを目の前にして、躊躇なく彼を撃ち、そして剣で刺し殺そうとさえするのである。これは、彼が「成長」したからだろうか。「戦士になった」からだろうか。私は、そうではないと思う。「憎しみ」という感情を知ってしまったがゆえに、彼は生身のシャアに向かっていくことができるようになってしまったのである。

今、ララァが言った。ニュータイプは殺し合う道具ではないって。戦場では強力な武器になる。やむを得んことだ。貴様だって、ニュータイプだろうに!

やめなさい、アムロ。やめなさい、兄さん。
二人が戦うことなんてないのよ。戦争だからって、二人が戦うことは。


 そこへ導かれるかのようにやってきたセイラが二人を止めると、シャアは一転してアムロに言う。

ジオンなきあとは、ニュータイプの時代だ。アムロ君が、この私のいうことがわかるのなら、私の同志になれ。ララァも喜ぶ

 倒せないなら味方につけて、アムロをララァにかわるニュータイプとして利用しよう、というのがシャアの魂胆であろう。この場に及んでも、抜け目のない男である。しかし、もしここでアムロが同調し、「よし、では本当の敵であるザビ家を一緒に倒そう」となったとしたら、どうだろう。ものすごく、よくありがちな大団円になったかもしれず、最後に敵をやっつけた、というカタルシスを得たかもしれない。しかし、この作品はそこから、さらに私たちを見たことのなかった高みへと、導いていってくれるのである。
 再度の爆発でアムロは吹き飛ばされ、シャアとセイラ、二人が取り残される。

ヘルメットがなければ即死だった

 バイザーに穴のあいたヘルメットは使いものにならず、シャアは倒れていた士官のヘルメットを拝借する。そしてマスクをはずし、素顔になる。シャアがキャスバル兄さんに戻った瞬間である。 アムロの一撃は、確かに《シャア》を亡きものにしたのである。

私の同志になれ、という突然の言葉に困惑するアムロとセイラ。二人になったセイラにシャアは言う。ヘルメットがなければ即死だったと。マスクを取り、一般兵のヘルメットを被った彼は、優しかった兄の表情を取り戻す

ここもだいぶ空気が薄くなってきた。アルテイシアは脱出しろ
兄さんはどうするのです
ザビ家の人間は、やはり許せぬとわかった。そのケリはつける
兄さん
お前ももう大人だろ。戦争も忘れろ。いい女になるのだな。アムロ君が呼んでいる


 しかしキャスバルに戻っても、なお彼はアルテイシアの方へは戻らなかかった。彼女をアムロに託して、その素顔で自分の戦いに決着をつけるため、キシリアを追っていくのである。

ガルマ、私の手向だ。姉上と仲良く暮らすがいい。そう言ってキシリアを撃ち抜くシャア。その顔、目はシャアというよりキャスバルである。セイラととてもよく似ている。ただしこの顔が見られるのはTV版だけで、劇場版では陰険なシャアの顔のままである。

「愛が憎に変わるのではなく、依存が憎悪に変わるのである」という言葉に最近出会った。



 アムロがシャアを、シャアがアムロを殺そうとするほどの憎しみを抱いたのは、互いが自身の存在価値をそこに置いて「依存」していたからに他ならない。アムロが己の力として依存していたガンダムが失われ、シャアが依存していた倒すべき敵としてのガンダム、そして己を隠していた仮面を失ったとき、それぞれの憎しみもまた、浄化されていったのではないだろうか。

みんなのところになんか、行けない。行ったって、生き延びたって、兄さんが

 兄さんが去ってゆき絶望するセイラ。一方離れ離れになったアムロも絶望している。

ちくしょう、ここまでか‥‥



 しかし、そんな彼に光明を見せてくれるのが、あの、頭と腕とをもがれて倒れる「ガンダム」なのである。第1話で、アムロは襲ってきたジオン軍のザクに対抗するため、拾ったマニュアルを手にガンダムに乗り込んだ。生き延びるためである。そして最終話で再び彼は、ガンダムのコクピットに乗り込んだ。生き延びるために。だが、戦いに疲れ切り、しかもシャアに刺されて傷を負ったアムロは、もう力尽きようとしていた。

ララァのところへ行くのか


まだ、助かる。頭も手足ももげ、残骸になったガンダムを見つけてアムロは言う。コクピットに乗り込むが、そこで力尽きようとしていた。

 初見のとき、とても、とても悲しい思いでこの場面を見ていた。アムロは死ぬだろう、と思ったからである。このときまで、この先にある光はまったく見えなかった。だが、ここから、私たちは「わかりあえない人々」の姿を描きつづけてきたこの物語が最後に見出す光の方へと、導かれてゆくのである。
 ララァの声が、アムロに語りかけ‥‥

殺し合うのがニュータイプじゃないでしょ
えっ、そうだな。どうすればいい?
アムロとはいつでも遊べるから
ララァ
決まってるでしょ、
見えるよ、みんなが。
ね、アムロなら見えるわ




 そのときはじめて、アムロはそのニュータイプ能力を、人を殺すためではなく、人を生かすために使うのである。
 第1話で、アムロがガンダムに乗ろうと決意したのは、爆風で吹き飛ばされたフラウ・ボゥが、目の前で母と祖父を亡くして絶望していたときだった。そのとき、アムロはこう言ったことを思い出す。

フラウ、君までやられる、逃げるんだフラウ‥‥しっかりしろ、君は強い女の子じゃないか。港まで走るんだ。走れるな? フラウ・ボゥ

 こんなふうに、絶望したフラウを励まし、立ち上がらせた頃の自分を、アムロは取り戻すのだ。そして言う。

セイラさん、立って、立つんだ

 こうして絶望するセイラを立ち上がらせ、行先を知らせると、ブライトには戴冠命令を、ミライにはランチの発進準備を、フラウ・ボゥには銃撃が止んだら走り抜けてランチへ向かうことを、カイとハヤトにはもう撤退すべきことを伝え、生き残った仲間たちは、ランチに乗ってア・バオア・クーから脱出する。

ホワイトベースが‥‥沈む

 ついに、彼らを乗せて戦い抜いたホワイトベース、その戦いの間、ずっと彼らにとって「帰る場所」だったホワイトベースが大爆発を起こし、消えてゆく。

アムロが呼んでくれなければ、我々はあの炎の中に焼かれていた
じゃあ、このランチにアムロはいないの?ブライト


 ここからのラストによって、真のカタルシスがもたらされる。敵を倒して勝利する、というものではない。「今の僕になら、本当の敵を倒せるかもしれないはずだ」と武器を握り、それの前に立ち塞がるシャアと死闘を繰り広げたアムロの憎しみが消え去り、敵を倒すのではなく仲間を助けることによって、心が浄化されていくのである。


沈むホワイトベースに敬礼するブライト。アムロが呼んでくれなければ、我々はあの炎の中に焼かれていた。私がホワイトベースにたどり着くまでは、あれほどに‥‥アムロと涙ぐむセイラ。しかし子どもたちは叫ぶ。4、3、2、1、ゼロー!

4、3、2、1、ゼロー!

 そして今度はカツ、レツ、キッカという、最後までともに戦った子どもたちに導かれ、アムロもまた爆発の中から脱出を果たす。

ごめんよ、まだ僕には帰れるところがあるんだ。
こんなうれしいことはない。
わかってくれるよね、ララァにはいつでも会いに行けるから




 ガンダムは失われ、ホワイトベースも沈んだ。しかしそれでもなお、アムロはいう。まだ僕には帰れるところがあるんだ、と。その帰れる場所とはどこなのだろうか。仲間なのか、日常なのか。一言では、言い尽くせないだろう。

 しかし、単に生き延びただけでなく「殺し合うのがニュータイプじゃないでしょ」というララァの言葉で自分の本当の力を見出したアムロが、そしてアムロを導いた子どもたちが帰ってゆく場所は、きっと、今までいたのと同じ場所ではないだろう。

 それは、これから切り開かれる新しい地平なのだ。

<今回の戦場> 
宇宙要塞ア・バオア・クー
<戦闘記録>
■地球連邦軍:ジオン軍の防御網を突破し、ア・バオア・クー内部にモビルスーツ隊が進入。ホワイトベースは片方のエンジンが損傷し着底、白兵戦に転じる。その後もう一方のエンジンも直撃を受け、総員退艦。ランチで戦場から脱出する。
■ジオン公国軍:ア・バオア・クーの防御網を連邦軍に突破され、要塞内での攻防が繰り広げられる。形勢不利と見た総司令官のキシリアは、部下に降伏を命じて自らは脱出を図るが、その直前、シャアによって殺害される。

宇宙世紀0080、この戦いのあと、地球連邦政府とジオン共和国の間に終戦協定が結ばれた


>>目次へ


since 2000