MUDDY WALKERS 

An another tale of Z

 MUDDY WALKERS◇  

 

 SF小説”An another tale of Z” 各話レビュー

第43話「オプショナル・プロトコル」

◇現代〜0098・アリスタ共和国
アリスタ共和国はソロモン共和国と通商条約を締結したが、条約に関連する各種法規が遵守されるための方策を定めた選択条項(オプショナル・プロトコル)については批准を見送っていた。企業の不正告発の通報制度など、アリスタの支配層には都合の悪い内容となっているためである。しかし、ソロモンが経営懈怠税を導入し、域外適用でソロモンと取引のあるアリスタ企業にも影響が及ぶため、ヴァリアーズ社傘下にあったDAC社はソロモンの統一会社法を採用してヴァリアーズの役員を追い出す反乱を起こし、DCキメコ社も同様に傘下から抜け出そうとしていた。一方、アリスタ国民の間では選択条項批准を求める声が高まり、首都ビリニュスのキュリー広場には、10万人の市民が集結して、茶会を開きつつ討論するという風変わりなデモが繰り広げられている。アリスタ議会での議決をあと2時間後に控え、デモの共同主宰者であるヨシフ・カーゾンとポアソン・ミレーは、ソロモンの戦艦エイジャックスが首都近郊に進出してきたことを知る。それに呼応するかのように、闇の組織が動き出そうとしていた。

◇現代〜0098・ソロモン/ズム・シチ
ゴットン・ゴー大佐は、暴風雨により決壊した堤防の補修と被災者救援に当たりつつ、政府を動かそうと首都で座り込みを始めたアリスタ市民のことを考え、ますますこの悪政に立ち向かう意志を固めていた。堤防工事をしたアレクサー社の社長は遁走していたが、ヴァリアーズは意に介することもなく、ジオン進出工作を進めている。そして新入社員のトンプソンに、彼の仕事の流儀と独自の経営哲学について語るのだった。
そんなヴァリアーズのやり方を許さないソロモンのリーデル首相は、彼を追いつめる秘策について情報部長のハウスと話し合う。そしてアリスタでのデモが暴徒化し、軍が介入する事態に備えてソロモン市民保護のため、戦艦エイジャックスを首都ビリニュスに向かわせた。

【この一文!】
「貴官の勇断に敬意を表する。アドミラル・スパイク、貴官とアリスタ共和国に栄光を。」
 旗艦二隻に続き、艦隊の侵入まで許したスパイク司令官に幕僚らが不安げな視線を送る。その視線に気づいた司令官は頭を振った。今度は官邸からの命令は受けていない。
「どうにもならんよ!」
 アリスタの主権などお構いなしに易々と防衛線を突破していった二国の艦隊について、スパイクは「無理だ(ネラジムノ)」と叫んだ。まず艦の性能仕様が違いすぎ、艦載機や地上配備のモビルスーツ隊の戦闘力も違いすぎる。錯乱する司令官に幕僚の一人が声を掛ける。
「案外、通した方が良かったのかも知れません。エイジャックスはリーデル首相の命令でキュリー広場にいる我が国の国民を応援に来た船です。つまり、国民に危害を加えに来た船ではなく、アリスタ海軍は国民を敵にはできない。」
 幕僚の言葉に我に返ったスパイクは艦隊に待機を命じ、テレビのチャンネルを首都の放送局に合わせると、以降は幕僚らと共に首都の映像を注視した。


▼アリスタ議会に対し選択条項の批准を求め、広場に10万人以上が集結して繰り広げられるデモ。自由主義と形式的平等で市場を席巻してきたヴァリアーズと、行き過ぎた自由主義を是正すべく、社会主義との融合と調和による改革を進めるリーデル首相は、ズム・シチとオルドリンに居ながらにして、このアリスタでの議決をめぐって対決している。戦艦エイジャックスの首都への領海進入は、そんなリーデル首相の「意思表示」であった。圧倒的な戦力差に、首都を防衛するアリスタ軍のスパイク少将はなすすべもなく、屈辱を感じていた。しかし幕僚の言葉に、私たちもまた、リーデル首相の真意を悟る。アリスタでの選択条項批准の議決まで、あと2時間。遠く離れた2人の「戦い」に決着をつける、見えない議会の動きがえもいわれぬ緊迫感を醸し出す。

第44話「オペレーション・フォルギラス」

◇現代〜0098・ビリニュス
アルカスル大学の同窓会でエズラ・ヴォーグ、サイヤード・エラスネス、トキコ・イホ、ノーマン・ブランクの4人は再会、全員が大学卒業後アリスタの官吏になっていることを知る。それから7年後、エズラは産業省からカウンシルへ異動し、エラスネスは首相補佐官に、そしてブランクは商務省を辞めてNPOの理事になっていた。改革を志向する者は、コースから外されて左遷されるのが常のこの国のシステムに絶望した彼らは、「ある計画」を立て実行することを決意する。選択条項批准を求める議案の国会提出、ついに参加者が20万人を越えたキュリー広場のデモ。これらは、彼らの計画によって創り出した状況だったのだ。議員たちが議決を躊躇する中、ついに警官隊を指揮するトキコが立ち上がり、「オペレーション・フォルギラス」が開始された。

◇現代〜0098・ビリニュス/戦艦エイジャックス
デモに参加するためにキュリー広場を訪れたゾーヤ・エレジェシカは、熱心に詩作を勧めるブランクと出会う。彼はNPO代表でデモの主宰者の一人であった。「民主主義社会において、デモは反抗ではなく創造である」と主張する彼は、これまでにない、一見無秩序に見える祭り(フェスティバル)のようなデモを実現している。ハインライン教授、ミレーとともにエレジェシカはアリスタ議会のトムソン議員に、選択条項の批准を求める8万人の署名を手渡すが、議員は無情に審議拒否を言い渡す。実は議員たちには、本議会への議案提出をためらう理由があった。しかし、事件の勃発で事態は一変する。アリスタ経済界の重鎮や要人が、次々に殺害されたのだ。首都近郊でアリスタ軍と対峙していたソロモン軍の戦艦エイジャックスでは、マーロウがこの事件を知り、ソロモン政府の介入を疑われることを危惧していた。

【この一文!】
「君はルオと財界人が死ねば、議会は選択条項を採択すると思っていただろう。」
「どういうことでしょうか?」
 意味を掴みかね、彼は理事長に発言の真意を尋ねた。
「まあいい、話がある。」
 ジャンセンは缶コーヒーを手渡すと、彼の隣に座った。
「君はアリスタの法律を尊重しなければならない。」
 何を当たり前のことを、彼は理事長の顔を見た。
「エズラ、法を踏みにじるということは、その国の決まりごとのみならず、その歴史、価値観、文化を踏みにじるということだ。法は論理ではなく、その民族の経験の体系だ。いかなる国の法であっても、それは尊重されなければならない。」
 デモと一連の事件の間には作為(アート)がある、という理事長の言葉に、彼は青ざめた。
「ジャネットに会ったそうですね。」
 話を中途で遮り、半年前に離婚した妻について尋ねたエズラに、ジャンセンが怒ったような顔をした。
「何か言っていましたか。」
 ジャンセンは立ち上がると、手に缶コーヒーを持ち、青ざめた顔で小刻みに震えている副理事を見下ろした。
「彼女は戻ってこない、また、戻れるはずもない、分かっているはずだ。」
 理事長はエズラにそう言うと、ロビーを後にした。


▼選択条項の批准を求める民衆の意志を阻んでいた財界人が襲撃されたというニュースにニヤリとし、民衆のシュプレヒコールに一人祝杯をあげたエズラ。その様子を、ソロモンから来たアドバイザー、ジャンセンはじっと見ていた。しばらく後、ジャンセンはエズラに声をかける。彼は、エズラが祝杯をあげた本当の理由を見抜いていた。計画実行に先立って、妻と離婚したのはエズラの覚悟があったからに違いない。彼はジャンセンが指摘するように「戻れるはずのない」道を選んだのだ。しかし祝杯をあげたそのとき、彼は越えてはならない一線を越えたことすら飛び越えて、すべてがうまくゆくと夢見ていたのかもしれない。それは一瞬のことだった。小刻みに震えるエズラ、ジャンセンは彼に、「戻れるはずのない」道へ自身が分け入ったことを思い出させた。アリスタの将来は依然議会が握っており、4人の将来には暗雲が立ちこめる。

第45話「パイン山荘事件」

◇現代〜0098・アリスタ
ティターンズの襲撃を受けた経団連会長のライスハウス邸に到着した警視トキコ・イホは、部長刑事のデイモンから、証拠の品として革張りのファイルを手渡される。そこには、財界と暴力団とが共謀した事件をはじめ、議員と闇組織の頭目ルオとの関係などが仔細に記述されていた。アリスタ議会では、トムソン議員の動議でようやく選択条項の批准を承認する議案が本会議に提出され、採決が行われる。要人の連続殺害は議会にも明らかに影響を与えており、廃案に追い込まれるものと思われていた議案は賛成多数で可決される。
アリスタ軍の司令官スパイクは、この議決にアリスタ経済の破綻を予想し、対峙していたソロモン軍の司令官マーロウを詰る。マーロウはそんな彼に、二国で未来を築きたいとするリーデル首相の意思を伝えて、この国の領海から立ち去るのだった。
それから1週間、スパイクの予想とは裏腹に、アリスタ経済はむしろ復調のきざしを見せ始めていた。デモの主宰者の一人だったヨシフ・カーゾンはDCキメコ社の本社に呼ばれ、社長から意外な申し出を受ける。

◇現代〜0098・アリスタ
選択条項の批准を機に、新しい道を歩み始めたアリスタだったが、その道筋を立てたはずの4人は、窮地に追い込まれていた。首相補佐官のサイヤード・エラスネスはイクセル首相に呼び出される。執務室には首相の他に、ソロモン共和国の情報部長、アンドリュー・フランシス・ハウスの姿もあった。首相は、自身には覚えのないルオ、ライスハウス、クラッパーの殺害を命じた命令書を突きつけて、補佐官を問いつめる。そのとき、すでにエズラは逮捕され、トキコとブランクは逃亡を図っていた。

【この一文!】
「散文的なものには興味がなかったんじゃないのかね。」
 オーファンの詩集を手に取ったハインラインが院生に言った。その言葉にエレジェシカが頬を少し赤くする。テレビには窓から火炎ビンを投げるノーマン・ブランクの姿が映っている。
「ある人から、学んだ方が良いと言われて。」
 詩集を手に取り、ハインラインはページをパラパラと捲った。オーファンはグラナダの詩人で、彼も院生時代に創作や詩作、趣味の四コマ漫画の投稿に没頭したことがある。修士論文が可だった理由だ。教授は彼の方を見ている院生に向き直ると、本を返し、その額を軽く小突いた。
「それは、良いことだ(ハラショー)。」
 だが、読むべき本もちゃんと読んでくれよ、教授はゾーヤにそう言うと、テレビを見ている彼女を置いて研究室に戻って行った。彼女もニュースを一通り見終えると、コーナーの椅子に腰掛け、プライスの著作を読み始めた。あの日以来、物の見方が少し変わったような気がする。
「良いことをしようとしたんでしょ、命を賭けて。」
 ハッとして哲学者の著作から顔を上げ、ゾーヤは再びテレビの画面を見た。ブランクは映っていなかったが、あのデモの日の赤シャツの運動家(アクティビス ト)の面影は、今も脳裏に焼き付いている。自分は詩人としてはまだまだだ、と、顔を赤くした彼女は思った。何か言いたいことがあるのだろうだけど、言葉にできない。


▼デモの成果は、選択条項の批准という実となって少しずつ、アリスタの国を変えてゆこうとしている。デモに参加したゾーヤ・エレジェシカもまた、その後の自身の内面の変化を感じ、風変わりなデモを主宰した、風変わりな人物を思い出していた。その人物は、今はテレビ画面の向こうで火炎瓶を投げている。法哲学が専攻だから興味はない、と言うゾーヤに、だからこそ詩を学ぶ必要がある、と説いたノーマン・ブランク。彼は言葉に新しい価値を創造する可能性があると信じていた。デモを通して民主主義の持つ可能性に挑んだ彼は、法を犯した罪により追いつめられている。しかし、籠城したパインの山荘で、彼の心はもはや誰にも追いつめることのできない境地にあった。

第46話「秘策」

◇現代〜0098・アルカスル
ロブコフ高地、スモレンスク市上空でマウアーらティターンズのアッシマー隊は、エウーゴの支援を受け、さらに旧クロスボーンのモビルファイターが導入されたオーブル軍と死闘を繰り広げている。勝利は近いとみたオーブルでは、共産党中央委員のウナトが首都開発計画に向けて動き出していた。ツェントル地区にあるオーブル支配地域の土地を競売するというのだ。これにはソロモンの証券化機関、SPVが関わっており、SPVが落札し、その後所有権をオーブルに引き渡す手はずとなっていた。これでウナトは22億フェデリンという莫大な資金を手にすることになる。一方、テレシコワ市で税務署の副署長を務める旧友と再会したウズミラは、ウナトが計画しているツェントルの競売について、旧友からの話を聞く。彼はウズミラに、ウナトの野望を挫くる計略をささやくのだった。

◇現代〜0098・オルドリン
ソロモンの証券取引委員会からの勧告で、ソロモンに帰国したヴァリアーズは母校のオルドリン大学を訪れ、そこで学生時代の後輩で今はソロモン軍の情報部長になっているハウスと再会する。ハウスはかつてヴァリアーズの薦めで彼と同じルウム社に入社したエリート社員であった。しかし彼らが卒業した旧制オルドリン大学、そしてルウム社はリーデル首相によって解体されていた。それは、悪しき弊害を社会全体にもたらすエリート主義からの訣別のため、ソロモン国民の意志により選択された措置であった。ハウスはヴァリアーズに、彼の会社もまた社会に必要のないものだ、と宣告する。
翌日、オルドリン証券取引委員会で、ヴァリアーズの審問が始まる。問題となっていたのは0098年7月12日の証券売買についてで、ヴァリアーズはこれをコンピュータの自動売買によるもので単なる過失と説明するが、審判団は彼がその結果得た300万フェデリンという利得を持ち出し、有罪ムード満々となってきていた。二回目の審問ではヴァリアーズ社がこれまで行ってきた悪行の数々が暴露され、ヴァリアーズは追いつめられてゆく。その夜、ホテルの一室から彼はある女性に電話をかけ、思わぬアドバイスを受ける。

【この一文!】
「派手にやられたな、マウアー。」
 不意に機体が軽くなったような気がし、気がつくと、数十メートルしか浮き上がらなかった機体がグングンと上昇している。モニタをチェックするとアッシマーの一機が彼女の機体を両腕で抱えており、もう一機が背後をバンクしつつ、機体の損傷をチェックしている。
「メインロケットが全壊だ。コーンは形を保っているが、向きがおかしくなっている。これは自力で飛行は無理だな。」
「やぶ医者め、良く見ろ、リードバルブと加速ポンプが溶け落ちている。」
 あのままエンジンを吹かしていたら爆発だ。損傷の酷さを饒舌に話すジェリドとヤザンに、彼女はホッと息を吐いた。
「やっぱり赤い彗星ね、油断していたわ。」
「おいおいファラオ、あれは違うよ。」
 赤い機体に乗っていたのはクワトロではないというヤザンの指摘に、彼女は目を丸くした。じゃあ、一体誰?
「あのショルダーアタックは学園時代に良く喰らったなあ。」
 機体を抱き抱えているジェリドがディアスのパイロットは知っていると言った。
「名前なんぞ知らなくて良いが、俺の良く知っている女だ。確かに腕は立つが、覚えとけよ、ファラオ、あの女は一人だが、俺たちは三人だ。」
 三人で掛かれば赤い彗星だって蹴散らせるさ。ジェリドはそう言い、陽気に口笛を吹いた。その言葉を聞いて、マウアーは笑った。そう、自分は一人じゃない。


▼ヴァリアーズを追いつめてゆくハウスとリーデル首相との計略、そして正統政府を倒しティターンズをサイド2宙域から駆逐した後のオーブルのトップを狙うウナト、ウズミラ、それぞれの計略。その一方でマウアー、ジェリド、ヤザンらティターンズの面々は黙々とツェントル地区で戦っている。赤いリック・ディアスと対戦したマウアーは、ディアスの体当たり攻撃を受けてアッシマーの変形機構が破損、高速飛行の出来ない状況に陥った。そんな彼女を救援するジェリドとヤザン、その短い会話の中に、出資者の抵当権のために、という不毛な戦いの中で彼らが得た結束を感じることが出来る。敵を陥れ、追いつめてゆく計略が着々と進む一方で、裏切られ続けて来た者がつかむ一筋の光がある。こうして笑えるようになったマウアーだからこそ、独善に生きてきた男、ヴァリアーズの心の内を計り知ることが出来るのだろう。

第47話「グラナダ・エクスプレス」

◇現代〜0098・ティターンズ
サイド2・タイロンのティターンズ基地から月へ向かったジェリドは、グラナダから進発するエウーゴの船団を偵察する。オーブルで大規模な会戦が計画されており、グラナダからは次々にエウーゴの護衛を受けた輸送船団がサイド2アルカスルのテレシコワ港に向かっていた。ティターンズはこの船団をアッシマー隊で強襲する作戦を立て、攻撃隊としてマウアー隊、ヤザン隊が組織される。攻撃隊長となったマウアーは、ヤザンが驚嘆するスピードで、乗機とともに配下の4機のアッシマーを操って航行し、月上空へと躍り出る。月の裏側に回り込んだマウアー隊はエウーゴ船団を発見、追いついてきたヤザン隊とともに、船団に襲いかかった。偵察行からの帰路にあったジェリドは、予定時刻よりもずっと早くマウアーから攻撃終了の報告を受けたことに驚いていた。数を減らしつつサイド2に近づいてくるエウーゴ船団に、延べ100機のアッシマーで攻撃しつづけたティターンズ。ガディ大佐は戦艦ラーディッシュへの攻撃を成功させ、旗艦アーガマを撃沈しようと狙いを定めていた。

◇現代〜0098・エウーゴ
ウナトとの後継者争いも最終段階を迎え、ウズミラは病床にあるオーブル共産党の最高指導者、トワイニングを見舞う。スモレンスク市は陥落し、オーブルの勝利は目前と見られている。オーブルを支援するエウーゴでは、新型モビルスーツ、リック・ディアスを導入するためエマ・シーン少佐がサイド5へ機体の受領に向かっていた。慣熟飛行をかねてディアスに搭乗しラーディッシュに帰還したエマだったが、50隻からなるエウーゴ船団を狙って5機のアッシマーが襲来、休む間もなく戦場へ駆り出される。しかし疲労のせいか思うように動けないエマは、傍受した敵の通信からアッシマーのパイロットがマウアーであることを知り、その強さに愕然とする。
それから2日後、ついに戦艦ラーディッシュを狙った攻撃が始まった。目前に迫るティターンズの重巡洋艦アレキサンドリアの背後から突如現われた大型戦艦の姿に、ラーディッシュの艦橋は騒然となっていた。

【この一文!】
「三つ、四つ、五つ、、双眼鏡でアガスタ領を横切るエウーゴ船団の隻数を数えていたアガスタ派遣艦隊司令官、エドワード・マーロウ中将は隣のブッダ艦長に ニンマリと笑った。彼の戦艦はアリスタ沖でエウーゴとティターンズの戦闘が始まったことを受け、守備領域であるアガスタ領外縁に進出している。今回はグラ ナダからひっきりなしに戦闘が続いているようだ。
「今回は私の勝ちだな、エウーゴは船団防衛(エスコート)に成功したようだ。」
 紙幣を渡そうかどうか躊躇しているブッダにマーロウは事情を説明した。ティターンズは全力攻撃をこの船団に掛けたはずだが、真っ先に沈めるべきモビル スーツ搭載船が無傷のまま到着している。オーブル軍が予定している作戦はコロニー内地上戦で、そこで使える兵力を潰さなければ意味がない。
「それでも半数は沈んだという話ですよ、エウーゴ艦隊もかなり被弾したようですし、戦術的にはティターンズの勝利と言えるのではないでしょうか。『ラーディッシュ』、『アーガマ』は大破という話ですし、、」
「君を見ていると、連邦軍にいた頃の私を思い出すねえ。」


▼ヴァリアーズがスポンサーになったことでもたらされたタッキード社のモビルアーマー、アッシマーは長距離航行が可能で、機内にはトイレはもちろん電子レンジやベッド、シャワールームまで装備されている。自動操縦のみならず、複数の機体の操縦系を1機のコンピュータにリンクさせ、1人のパイロットが複数の機体を操縦することも可能なのだ。そんな機体の性能をフルに発揮して、サイド2から月への長距離遠征攻撃を行うティターンズ。ラーディッシュは撃沈、旗艦アーガマさえ無傷ではいられなかったが、しかしアガスタ領海で高みの見物を決め込むマーロウの判定は「エウーゴの勝ち」。半数は沈んだという船団の輸送船だが、目的は、コロニー内での大規模会戦のための武器・兵器の輸送であって、ティターンズの目指すべき勝利条件は、数でも、敵の戦艦、旗艦を落とすことでもなかったのだ。思わずニヤリとさせられる展開から、大局を見ることの出来る者と出来ない者の「差」を教えられる。

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