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An another tale of Z

 SF小説”An another tale of Z” 各話レビュー

第20話「つかの間の休日」

 ハマーンのテレビ出演で、過激な偏向報道に終止符が打たれ、スペースノイド糾弾の機運が高まっていた連邦の市民感情も変化しつつあった。
 そんな中、故マイノル大統領の国葬が厳かに営まれる。葬列に並んだマシュマーとハマーンとは、悲しみに包まれた中、密かに視線を合わせるのだった。そんな二人の様子を目にしたリーデル首相は、そろそろマシュマーをこの任務から解放してやろうと決意する。
 その頃、偏向報道対策にソロモンから呼び寄せられた情報部長のアンドリュー・フランシス・ハウスは、知り合ったばかりの人気キャスター、ベルトーチカ・イルマと某所にシケこんでいた。ベルトーチカは、女の勘でかぎつけたマシュマーとハマーンの関係を探ろうという腹である。大統領府ではジャミトフとバンカーが、ハマーンのテレビ演説後で変わった風向きに苦慮している。なんとかサイド5に逃れたエウーゴ艦隊は、月の廃都レスターブラウンで再集結に向け潜伏している。葬送の後の静けさの中、随所で次なる陰謀が静かに動き始めていた…。

【この一文!】
「ジオンの公王に比べれば、あなたはずっと恥を掻いても良い立場にあるわ。」
 姉の一言でマシュマーは決心した。今回はもう逃げるのを止めよう。マシュマーは鞄を置くと、アイリスの部屋に向かった。子供たちと遊んでいた娘がキョトンとした顔で突然やってきた父親の顔を見る。後をついてきた女性二人の前で、マシュマーは右手を上げ、恐る恐る娘に話しかけた。
「アイリス、父さんと一緒に来る気はないかい?」
 アイリスは相変わらず、キョトンとした顔でマシュマーの方を見ている。
「お星様の所に行くのよ、アイリス。」
 スザンナ夫人が言った。
 それを聞き、娘の顔に喜びが浮かんだのが、マシュマーにも分かった。


▼秘密の関係を守り続けるマシュマーとハマーン。彼らの周囲には、その関係をネタに脅しをかけようとする輩もいる一方で、姉マグダレナやリーデル首相など、温かく見守る人々にも恵まれている。ジオンとソロモンとに離ればなれとなった二人の、はじめての再会が実現したのも、そんな人々の後押しがあってこそだった。たとえどんな立場であろうと、愛し合い求め合う二人の自由を奪うことはできない。そんなリーデル首相の心意気の一方で、姉マグダレナのマシュマーを見る視線には家族ならではの厳しさがある。姉の一言で、アイリスの子育てに向き合うことを決意するマシュマー。戦略家として申し分ない彼にも、まだまだ人間として成長すべきところがありそうだ。

第21話「凶弾」

 姉マグダレナに養育を任せていた愛娘アイリスを引き取ることを決意したマシュマーは、彼女の国籍を連邦からソロモン共和国に移すために多額の金と時間を費やし、煩雑な手続きを済ませなければならなかった。つかの間の休日を終えて女帝業に戻ったハマーンは、ジオン大学のハインツ教授を呼び、連邦の反スペースノイド政策に対する見解を求めていた。その姿は、彼女と同様最近トップの座についたばかりのトム・バンカー大統領とは対照的であった。連邦制式艦隊の存在意義と果たすべき役割についてブルックス提督からの説明を聞いている彼は、要領を得ない返答を繰り返すばかりだった。
 しかしそんな彼らの与り知らぬところで、新たな陰謀が静かに動き出していた。アクシズには反マハラジャ勢力「ジオン正常化同盟」の面々が集結し謀議している。そしてハマーンの元婚約者フリッツからの依頼を受けた狙撃手ゴールドマンもまた、仕事に取りかかろうとしていた…。

【この一文!】
 報告を受けたマシュマーは、怪船の目的と、自ら追跡したという第八艦隊司令官の謎めいた行動にしばらく考え込んだ。センの言う再併合という話も現時点では飛躍しすぎる。ハウス中将の報告といい、ジオンで何かが起こりつつあることは確かなようだ。しかし情報は断片的で、必ずしも一定の方向性を示していない。具体的な情報が入るまで、もう少し、様子を見よう。
 この時点では、むしろ連邦の新戦艦が公表された以上の性能を有しているらしいことの方がマシュマーの関心にあった。月から三〇万キロもの間、「レイキャビク」を追跡することができ、しかも気づかれなかったのだから、艦隊のデータは相当修正する必要がある。公表されたデータは明らかに低い。マシュマーはハマーンの件を頭から追い払うと、副官のカーター准将を呼び、作戦部でデネブ級戦艦のデータを洗い直すよう命じた。


▼パトロール中の「レイキャビク」が、ジオンの大型戦艦「グワンバン」と不審な小型船とが通信している現場に出くわす、という事態が発生。艦長のマーロウは小型船を追跡し、サイド4領空にまで入り込んでいった。その「レイキャビク」の後を追尾してきた連邦の最新鋭戦艦。その前には、クーデターの危険を示唆する情報部長ハウスの言葉もあった。いろいろな場所で、今までにない不可解な出来事が起き、不穏な動きを予感させる情報が断片的に浮かび上がってくる。私たちはマシュマー同様にただ、ピースとピースがどう組み合わされていくかを想像しながら様子を見るしかないが、マシュマーがまだ知らないことを知っている。やきもきする、とはこのことだろうか?

第22話「潜入」

「ジオンの女王が狙撃されました、安否は不明。」
 狙撃手ゴールドマンの恋人アイラ・フェートンは、勤務先の病院でこのニュースを耳にした。もっとも彼女は恋人の仕事についてはまったく知らない。自宅アパートに届いていたスイス銀行からの封書を開けた彼女は、自分名義の口座に驚くべき金額が振り込まれているのを知る。
 マシュマーはこのニュースを、ソロモン国防省の食堂のテレビで知った。呆然と立ちすくむ彼だったが、娘のために新築した自邸に連絡を入れると、年若い家政婦チェーン・阿木に、今夜は帰りが遅くなることを伝える。ソロモン国防省では、共和国はじまっていらいの第一級の警戒指令が出されていた。ジオン公国では、クーデターの首謀者コルプ将軍が、本国艦隊司令官のドリス大将を味方につけることに成功。ソロモン政府に、在ソロモンのジュグノー大使の引き渡しを要求していた。リーデル首相は大使から事情聴取をすると、マシュマーに向かって言った。
「ジュグノー大使と共同し、女帝を救出せよ!」

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 司令官に報告した後、アムロは空母「イカロス」に戻るベルトウェイで、かつての宿敵のことを考えた。シャア・アズナブル、現在はジオン軍大将だそうだが、こういう状況では言われなくてもしゃしゃり出てきた男だ。そのスターが姿を隠し、コルプだのガイラーだの、二流三流の役者が右往左往している現在のジオン情勢は、やや物足りない。
 それに、かつての恋人のこともある。シャアの妹、セイラ・マスは、今はジオンにいるはずである。ズム・シチ市で小さな新聞社の社主をしていると聞いたことがあるが、これも安否が気になるところである。セイラを巡ってシャアと殴り合いをしたのは、遠い昔のことだ。


▼同い年で連邦軍第二艦隊司令官に就任しているサディアス・アルバート・コープ大将に引き立てられて、術科学校の教官から機動戦闘集団の指揮官になったアムロ・レイ准将。「前作」のヒーローは本作では主人公と相対する側にいるが、前ヒーローにふさわしい華々しさがどこかにある。かつての宿敵シャアの姿が見えないジオンの政権転覆劇に物足りなさを感じるあたり、いかにもの演出。そしてもう一人、アムロの回想を通して懐かしい人の消息を私たちは知る。最愛の人を助け出すための救出劇の陣頭指揮を執ることになり、にわかに存在感を増す我らがヒーロー。かつてのヒーローにも、ズム・シチに気になる女性がいるようだ。新と旧とのコントラストが心に留まる。

第23話「救出」

 ハマーンは外務大臣アスター・ダイクンらとともにコロニー「カールスバーグ」に逃れているという情報を得たマシュマーらは、ハマーン救出に向けてこのコロニーに潜入しようとしていた。特命を受けたベルテン情報社のイッアーク・ハイマンはハマーンを発見できないまま喫茶店に入ったが、そこで窓の外を歩く見覚えのある顔を見つける。 
 ハマーン救出の先遣隊に合流するために急いでいた「レイキャビク」は、知らないうちにジオンの「保全宙域」に入っていた。ジオンの巡洋艦「ムサリク」に発見され、マーロウ艦長は空気の読めないムサリク艦長ローゼン中佐のだらだらとした臨検に付き合わされることになる。その頃「リック・ディアス」に乗ったマシュマーは、ハマーンのいるコロニーに侵入。彼女を乗せた突撃艇を守って「レイキャビク」へ向かっていた…。

【この一文!】
 相手が旧式のザクとはいえ、二〇機以上を一度に撃破する光景はエマも初めて見るものだ。クワトロとソロモンのトップクラスのパイロットの実力を見た彼女は得心していた。それに、三機を撃破した彼女の活躍はクワトロ大尉も目に留めているだろう。あの突撃艇にはおそらくジオンの女帝が乗っているはずだ。ここまでの犠牲を払って、ジオン領内から脱出させるべき人物が他にいるとも思えない。口には出さないが、聡明な彼女には分かっていた。
「エマ中尉、貴官はRX178に慣れているようだ。今後も期待してよろしいな。」
 クワトロからの通信が入る。その言葉を聞き、彼女の気持ちが初めて晴れやかになった。これで海賊や毒ガス作戦には、永久に参加しなくて済む。


▼作戦部長マシュマー自らの出撃、そしてクワトロとの共闘。この豪華メンバーに新たに加わったのが、ティターンズを抜け出して、最新鋭機RX178をひっさげてエウーゴに飛び込んできたエマ・シーン中尉である。北米の片田舎出身の彼女は、女性の希望の星となるべくエリート軍団であるティターンズに入隊したが、思い描いた理想とは裏腹に、その任務は疑念をかき立てるものだった。彼女は単に戦績を上げてエースとして君臨したいだけのパイロットではなかった。クワトロの信頼を得た彼女。ここにはその活躍にふさわしい大義がある。

第24話「アライアンス作戦」

 サイド3を脱出し、サイド5に亡命政権を樹立したハマーン。しかしバルザック大将率いるジオンの第一艦隊は、クーデター以降これといった動きもないままサイド3近郊で待機していた。意味のないパトロール任務で艦隊は分散。コルプ将軍側についたドリス大将の本国艦隊と対峙するどころか、傘下の艦艇が脱走するに任せている。エウーゴのクワトロ・バジーナはもう一つの立場、ジオン公国艦隊副司令官シャア・アズナブル大将に立ち返って第一艦隊の旗艦「グワンラン」に乗り込むと、女王陛下の命によってバルザックを解任、自ら艦隊の再編成に乗り出した。すでに地球連邦軍は、第三艦隊と第八艦隊を月のグラナダに集結させ、この内乱に乗じてジオンを再併合しようと動き出している。シャアによって再編された第一艦隊に合流すべく、戦艦グワンバンで出航するハマーンを見送ったマシュマーは、ソロモン共和国始まって以来となる大作戦「アライアンス02作戦」の発動を命じた。

【この一文!】
 やる気か、ガーフィールド、ルグランは怒りで肩を震わせた。その時、第八艦隊旗艦エベレストから、強力な電波で強制的に割り込みが入った。モニタ上のルグランの顔が口を開けたまま凍り付き、その間抜けすぎる姿を見た彼は通信オペレータに向かって怒鳴ったが、オペレータの必死の回復操作にもかかわらず、画面は凍り付いたまま、やけに平静な別人の音声が両旗艦に流された。ルグランは失念していたが、センの最新鋭艦と彼の艦との間には設計年次に二〇年近い差があり、電子装備・通信設備の性能にもケタ違いの差があった。
(あの電波野郎!)
 総司令官、ルグラン提督は怒り狂い、帽子を通信機に叩きつけた。


▼第三艦隊のルグランと第八艦隊のセン、連邦軍の名物コンビが久々の登場である。ジャブロー事件の際には、宇宙艦隊でありながらエウーゴの地上部隊、カラバを南極大陸の果てまで追いつめ、その奮闘ぶりはソロモンのマーロウ大佐を唖然とさせた。そんな熱血右翼ルグラン提督だが、今回も、ジオンの「再統合」を目指す大作戦でどちらが総司令官になるかで、センと艦隊あげての抗争を繰り広げるなど、その熱血武闘派ぶりにはさらに拍車がかかっている。ソロモン艦隊と対峙することになり、「すわ、戦闘開始か」と意気込むや、相手から宇宙世紀以前の古い条約を持ち出され、立ち退きを命じられてまたも頭に血が上るルグラン。しかし彼の熱血は私たちの笑い以外、何によって報われるのか。本当の敵は身内にいるようだが…。

第25話「魔弾の射手」

 ジオン内乱に介入しようと動き出した連邦軍に対してアライアンス作戦を発動したソロモン。これに呼応して、連邦軍第五艦隊がソロモン討伐に動き始めた。ソロモン駐留の第五艦隊はジャブロー事件後、艦隊の半数をサイド1に回さなければならなくなり、艦隊を集結させて再度ソロモンに到着するまでに5日間が必要だった。しかしソロモン軍は連邦第三・第八艦隊を迎え撃つため、すっかり本国を出払ってしまっていた。5日のうちに決着をつけられるのか? 頭を悩ませる作戦部長マシュマーのもとに、ハウスが新たな情報をもたらした。コルプ将軍率いる反乱軍が、ステルス戦艦「ケルベロス」にコロニー破壊用の核兵器Jミサイルを搭載し、首都星ズム・シチを狙っているというのだ。これは本国艦隊ドリス提督への恫喝だった。事態打開のため、マシュマーは決断を迫られる!

【この一文!】
「第五艦隊司令官のジャクソンは知っている。ルグランのような戦争バカではない。彼の師であるブルックス大将と同様、大局を見ることのできる指揮官だ。おそらくソロモン討伐に彼は乗り気ではあるまい。そこに付け入る隙がある。」

「接近するキャメロン艦隊にインターセプト・コースを取れ。」
 ブレックスは操舵手のアンナに命じると、司令席に腰掛け、星図を示すパネルを凝視した。人材不足の折、元メカニックのアンナも悪くないが、つくづくトーレスを失ったことが悔やまれる。


▼月の廃都レスター・ブラウンで再起を図ろうとしていたエウーゴのブレックス・フォーラ。密かにソロモンから軍需物資が届けられ、彼らはわずかな手勢を率いて苦境にあるマシュマーのために出撃していく。60隻の艦艇と300機のモビルスーツを防ぐ軍勢は、わずか1艦、マラサイ8機プラスアルファ。しかしタイタニア戦争、ジャブロー事件と、地獄のような戦場を渡り歩いてきた名将は、軍隊というシステマティックで非人間的な組織の動向に、人間的な心理がときに強く作用することを知っていた。正常な人間は、大義を持たずには人の命を奪ったり、友の命を見捨てたりすることはできないものだ。本当に恐ろしいのは、大義を持った敵。ふと、冒頭のハマーンの憂いが頭をよぎる。第二部のクライマックスを貫く心理劇。

第26話「ズム・シチ解放」

 特命を受けたソロモン共和国軍のタケシ・ライヒ中佐は部下とともにズム・シチに潜入し、軟禁されていたドリス夫人と娘アルマを連れ出して、サイド5に送り届けるという少々厄介な任務に取りかかっていた。連邦艦隊と対峙していたソロモン艦隊のガーフィールド大将はマシュマーからの撤退命令を受け、本国に向かうことになる。ズム・シチを狙うミサイルを積んだ戦艦ケルベロスに対してレイキャビク艦長のマーロウはついに攻撃を命じるのだった。
 イエガー中将率いるジオンの第二艦隊がズム・シチに近づいている。サイド3宙域にはシャアの率いる第一艦隊と連邦軍の第三・第八艦隊が残るのみとなったとき、反乱軍についていた本国艦隊司令のドリス大将は、ついに降伏を決意する。そして38日ぶりに、ハマーンはズム・シチにある宮殿のバルコニーに立ち、住民たちに歓呼をもって迎え入れられるのだった。

【この一文!】
 どうやらまたハマーン女王に戻りそうね。表通りに面した小さな空っぽのビルの三階から、コロニー各所のハッチから続々と侵入し、表通りを行進してくる第二艦隊の装甲車や兵士を眺めていた社主は思った。旧マハラジャ政権時代から、政府批判の急先鋒、公室政治の弊害を批判し続けてきた札付きの政府批判メディア「アルティシア」は当局から何度も出版禁止のお咎めを受けているが、今回のクーデターがいちばんひどかったと社主は思っている。コルプの手の者はビルから編集用のコンピュータ、資料、印刷機、あまつさえ社主の私物まで没収した。廃棄されなかっただけマシだと思うが、それらは現在、ズム・シチ地方検察庁の貸倉庫の中にある。

▼ここにも一人、このクーデターと戦い、そしてジオンという国を変えようと戦っている人がいた。懐かしい名前を見出し、その彼女の姿勢に「らしさ」を覚える瞬間。地球連邦軍第三・第五・第八艦隊、サイド5ソロモン、サイド6フォルティナ、そしてサイド4ユニオンを巻き込んだジオン公国の内乱は、艦隊同士が対峙しつつも大きな戦火を交えることなく終息に向かっていく。しかしこの戦いは、まだほんの「兆し」にずぎない。戦場から戻って休息する男たちの影で、女たちの静かな戦いが始まっている。うら若き女子アナルー・ルカに蹴り出されたベルトーチカ、垣間見たマシュマーの「元妻」に今までにない感情を覚える家政婦チェーン、そして戦友キャメルや恋人レオンチェフを死に追いやったはずのティターンズで頭角を現し始めるマウアー・ファラオ。幕引きに散りばめられた新たな火種。

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